2004年11月16日

─誰も知らないホントの話─

ノック、ノック。

黒いスーツに身を纏った屈強な男三人が鋭い視線を向けつつ、扉を叩いていた。

ノック、ノック。

「KR田さん、居るのは分かってるんですよ。KR田さん」

KR田と呼ばれる男は、寝ていた。
昨日も残業で業務に追われ、帰ってきたのは1時だ。
ギリギリの最終電車に飛び乗って飯も食わずに寝た。

夢の中で聞こえいるだろう扉の音が本当は自分の部屋の玄関からだと気が付き、
KR田は慌てて起きてた。

時計を見る。6時だ。
6時・・・?
いったいなんだろう、こんな時間に。KR田はいたって真面目な男だった。
少なくとも朝の6時に誰かに叩き起こされるような人物でもない。

いぶかしながらも電気をそーっと点け、扉の覗き穴から覗くと男が三人立っていた。
その中の一番背の高い奴が扉を叩いている。
何なんだ、あの男達は。
KR田はとたんに心配になった。

何かとてつもない嫌な出来事が自分の周りで起きているような気がした。

しかしそれと同時にKR田は元々の性格が真面目なせいか、
不明瞭な出来事にはきちんと立ち向かう面もあった。

それが災いしてする必要の無い業務も引き受けたりするのだ。
同僚が帰り際にKR田の肩をぽんと突ついて言う「もっとラクにやろうぜ」。

だからKR田は扉を開けた。なかなか出来ることでもない。
そうだろう、朝の6時に扉を叩かれる。覗き窓を覗く。黒い背広の男が三人だ。

ガチャリ。

「はい、わたしがKR田ですが」

慇懃にもその男はKR田が扉を閉めないようきっちりと足で止めていた。

もう二人の男は何を考えているのか分からないが、視線に油断がない。
KR田の背中に緊張が走る。

男はまるで新聞記事を読むように続けた「KR田さんですね。私たちは皇****という者です。KR田さん」。
「はい」
「突然ですが、この方をご存知で?もちろん存じられてないことも無いでしょうが大切なことですので、よく見てください。もしKR田さんがお忘れになったということであれば、私達にはKR田さんのご記憶を思い出すお手伝いもできます。この後ろにいる彼らはそういう仕事が実に得意な連中でして。なので、そんなに思い出すのには時間がかかる事も無い。ただ、我々も慎重にコトを運びたいものですから。」

男はそう言うと内ポケットから一枚の写真を取り出した。
女性が半身になってその御顔が正面から撮られている。

その写真の女性にはもちろん見覚えがあった。紀ナントカ様だ。
そしてその男がなぜこの時間に訪れたのかも。

KR田は答えた。毎日見慣れている玄関からの情景がひどくよそよそしく感じる。
見えない筈の格子に囲まれている自分がいた。

「はい。存じ上げております」

男が初めて笑顔を見せた。
「KR田さん、あなた、ヤっちゃいましたね」

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投稿者 ko : 2004年11月16日 11:45
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