・辻 仁成 「旅人の木」
「旅人の木」
両親の葬儀をきっかけに、何年も音信不通の兄を探す主人公。兄のアパートを訪ねると、そこには誰も居なかった。東京を舞台に、兄を知っている何人かの女性や、兄が働いていたというデパートの屋上にある植物園の同僚を手がかりとして、空白の時間を埋めていく弟。兄はいったいどこに?兄が本当に求めていたものは?辻仁成の作品のテーマにしばし見られるレーゾンデートル(存在理由)とは何か?が如実に描かれた作品。過去と現実を交錯させながら、自分の知ることのなかった兄の一面を、彼を知る人達を通じて、さらに兄に近づこうとして、自分に投影し、自身を知ることとなる弟。脆いまで東京のドライな人間模様を描いた作品。いささか題名と内容の差異が気になるのが残念。インパクトのある題だけに物語が埋もれてしまったか。