2005年04月01日

en-taxi 9号

今号(9号)の en-taxi の特集のひとつに 開高健 をめぐる対談が掲載されていた。対談者は 黒井千次 。

en-taxi は扶桑社刊の季刊誌で文学系の雑誌である。携わっている方々の面子が色濃く、 リリーフランキー、福田和也、坪内裕三、石丸元章 といった文学界のgonzo(ゴンゾ-)達がラインナップだ。


連載モノ、単発モノとそれぞれ珠玉の内容で、特に創刊号から続いていて、今号でついに最終話を迎えた リリーフランキー の「東京タワー」は間違いなく泣ける小説である。

北九州小倉で育った同氏の回想録に近い物語で、非常にリアルスティックに当地の情景が描かれている。丸源、魚町とか、門司港などなど。

セリフが北九州弁なので、九州から東京に上京している人だったら、きっと強いシンパシーを感じるんじゃないかな。思わず故郷を懐かしむことだと思う。僕は北九州で育ったわけじゃないけれど、仕事の関係で半年近く住んでいたので、そんな北九州弁の物語を、北九州が舞台となった物語を読むと、グッと胸に迫るものがある。

ネタばれになるので詳細は割愛するが、今回のメインにあるセリフを少し。「オカン・・・。オトンがこんなこと言いよるよ。」どうしてこのセリフが登場するのか読まないと掴めないんだけど、僕はもうこのあたりでじわっと目に潤むものが。書籍化を強く期待したいところである。

*

開高健 の対談は氏の17回忌を期に企画されたもので、闇3部作のひとつ「夏の闇」を中心に語られたもの。

同世代の小説家である黒井氏、そして坂本氏。坂本氏は、神奈川にある開高健記念館(NPO)の代表者ということで、彼にまつわる懐かしいエピソードもいくつかお話しされている。

話題となった闇三部作については僕も同じ印象を持っいていて、つまり「輝ける闇」はルポタージュと小説を組み合わせた手法で描かれ、作中の主人公(=開高)が内面というよりは、舞台としてのベトナムに代表される外部との強い結びつきが描かれている作品だ。

それと正反対に「夏の闇」は、彼の躁鬱質を特徴付けるように、前半では厭世的で鬱質の〝留まることしかできない〟内面的方向が強い人物像を押し出し、唯一の外部である〝久しぶりに遭った女性〟が彼の救済というか、外の世界と結びつける掛け橋のような役割を果たしていて、その破滅にも似た情景を描いている作品。僕はいままで「輝ける闇」が至高の作品かなと評価していた。この作品が一番滑らかに文章が瑞々しく進んでいるからであって、いつだって読むほどにうなされる。もう疑いの余地もなかった。

でも、久々に読んだ「夏の闇」(実は2月あたりから 開高健 の小説、エッセイを読み直している)の印象が、がらりと─まるで勢いよく襖を開けるように─変わっていたのに驚いた。僕の読み方が変わったのかもしれない。それとも文学が取り巻く僕の環境に何かが訪れたのかもしれない。いずれにせよ、こういう作家も珍しい。読み直すとまた新たな発見がある作家は数多くいるけれど、最初に読んだときの印象と再読したときの印象はあまり差がないのが個人的な意見というか経験である。

10年前に読みづらかった部分─選ばれすぎた言葉と文章─が、読み手の僕では消化できなかったし、その物語を覆う薄い膜のような鬱質が馴染めなかった。ところが再読したら、主人公の内面的焦燥、自分を滅ぼしかけないくらいの行く先を失った姿に共感を感じて、主人公自身がなにもかもを喪失しそうだけれど、それでも何とか細い紐にぶらがるように懸命に〝生〟に向かってもがいている情景描写に喉を鳴らした。

氏の作品では本文にエッセンスのようにちりばめられている小話がよく出てきて、それは他の作品でも見かける小話なので、2回目以降はどの作品で見つけても新鮮味が少ない印象だったが、これも以前ほど目にとまらなくなった。

en-taxi にはこういった企画や特集があるので、定期購読している。
ちょっと大きな書店ではないと置いていないかも知れないが、お勧めである。

en-taxi(扶桑社)
詳細

開高健
1957年『裸の王様』で芥川賞受賞。
1968年『輝ける闇』を新潮社より刊行。
1972年『夏の闇』を新潮社より刊行。
1989年12月9日、食道癌に肺炎を併発して逝去。享年58歳。

1990年雑誌『新潮』87巻第2号にて未完作品『花終る闇』が発表。

その多数のノンフィクション、フィクションを発表。

開高健記念会

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投稿者 ko : 2005年04月01日 11:32 | トラックバック(0)
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