メキシコは非常に乾燥した気候であるのか、やたらにテキーラが美味しかった。
日本やロスでもあまりお目にかからないローカルなブランドで、それでいておいしい銘酒がゴロゴロしていた。
しかも安い。
その土地で育ったり、発展や熟成したアルコールを現地で飲むのが一番美味いというのが定説であり、世界共通の夜の話題であり、ドリンカー達の言葉であるようだが、メキシコもそれに例外ではないようで、この土地にはテキーラがピッタシだなと、髪の長いヒッピーまがいの若者は感じたようだ。
事実、トルティージャ、タコス、ワカモーレなどなど、これらの食事や食材も的確であり、杯をすすめる快速切符であった。
ロスから南下して、サンディエゴを通過すると陸地沿いの国境の街がある。
片方はメキシコで片方がアメリカで、ティファナと呼ばれる国境地帯の街は、旅人達が通過する空圧施設のような、洗礼を受ける観光地であり、南米の入り口としては手ごろな場所である。
一歩、国境を越えただけで、アスファルトの舗装は大雑把になり、耳に届くのは、スペイン語だ。
「Hola.コモエスタ セニョール!!」
そのティファナから、乗合いバスで南西に2時間程度揺られると辿りつくのが、ロサリートという小さなひっそりとしたビーチである。
これといって目新しい観光スポットもないけれど、国境から近く、簡単に週末にも訪れることができるというので、西海岸あたりに住むアメリカ人がたくさんいた。
ホテルロスペリカーニョから5分のところにある、照明の暗い酒場は、バーテンのカルロスが切り盛りをしていて、珍しいローカルのテキーラがたくさん置いてあった。
もちろん僕はそういった酒場を素通りするほど慎み深い旅行者ではない。
その猥雑で情熱的な酒場に行くこととした。
カルロスはいかにも酒精が大好きそうなタイプの男で、たっぷりとした肉感的な夜を過ごすのを得意としたメキシカンジゴロで、普段目にするアメリカ人ではない日本人に昂奮していた。
笑うと酒皺がビロンと伸びるのがとっても愛嬌のあるこの男は、「どうだ、これを飲んでみるか」と、ふらっと立ち寄った我々にニッコリとして、ぶっとい蛇が漬け込んであるテキーラを差し出した。
日本にも蛇酒というのはあるし、ちょっと気の利いた店であったらハブ酒などを置いているのを目にしてきたから、多少なり嗜みはあったけれど、まさか太平洋を挟んだかつてのインカ帝国の末裔がぬっと蛇酒を差し出した事実には驚かされた。
こんなのはてっきり東洋だけの習慣だと思っていた。
いくらするんだこれ? 普段から旅先で辛酸を舐めつくしている旅人である我々は、悲しい哉、とりあえずこの質問をする身に仕上がっているから、こう聞き出したけれど、「オゴリだ」と一言笑って返してきた。
そればかりか、これ飲むと元気になるぜぇ、と自分の下半身を指し、下品にウィンクをよこした。
その男を僕は一気に好きになった。メキシコの夜に相応しい感じがする。蛇の漬かったテキーラ。
どうしたかって? もちろんショットにあけて呑んださ。
「Salud!」(サルー!。乾杯っ!)ってね。