ゼニがねぇ・・・という貧乏一人暮らしの てっちゃん@もう遅刻したらヤバイっす と新橋の立ち呑み(角打ち)で呑むこととする。
角打ちは東京か北九州での〝立ち呑み〟の愛称で、もともとは酒屋の一角で樽酒の試飲なども兼ねて暗黙の了解的に呑むことから発祥したらしく、〝角〟で〝打つ〟から「角打ち」と呼ばれるようになったらしい。
つまり、角打ちのほとんどは、酒屋が兼業をしていて、樽酒や升酒を1杯幾らでちらほらと量り売りをしているわけである。
店によっては、それがだんだんと高じて、つまみも普通に出すようになり、テーブルも出してと、規模が大きくなって、じゃ、せっかくだしねと暖簾を構えるようになったとかならないとか。
調べてみると、東京にはじつにさまざまな角打ちの店が人知れず散らばっていて、普通におでん種をだしたり(平澤おでん@王子 がそうだね)、揚げ物や焼き鳥、築地直送の魚を客に提供したりとバリエーションがある。
関西では、串カツ屋が立ち呑みの代表的な主流で、テーブルにあるソース壷には「2度浸け禁止!!」と貼り紙が張ってある、これは一度口に運んだ串カツを改めてソースに浸すのはマナー違反なのだと、開高健のエッセイにも描かれている。
個人的に感想を述べると、「立って呑む」というスタイルを、一般的な「座って呑む」のスタイルに対し、プラスアルファを求めると、量か味か値段かとなるのではないだろうかと思う。
四谷の鈴傳という店は創業150年の酒屋で、ここでしか呑めないような日本酒を惜しみなく立ち呑みで提供していて、そういった珍しい日本酒や量り売りで格安で味わえるというのも角打ちの楽しみだし、新橋の魚金の刺身は居酒屋なんかは目じゃない鮮度と品目で、わざわざここの魚を食べに足を運ぶサラリーマンも多いとか。
だいたいの店で呑んでも一杯300円程度。
立ち呑みだから軽く呑むには丁度いいし、確かイタリアやスペインではバールと呼ばれて、ワインを片手に夕暮れ時になるとカウンターが賑わうんじゃなかったかしら。
日本だとオヤジ濃度が高めであまり女性を見かけはしないが、ヨーロッパあたりじゃ実に当たり前のスタイルなのだ。
そういうことで、この日は新橋にある「野焼」に行く。地下鉄の日本橋経由で降りて、待ち合わせのJRの改札に向かう。
夕暮れ時の新橋駅は会社帰りのサラリーマンやら早々と呑んでいる老若男女で活気付いている。
6月の良く晴れた平日のこういう光景も悪くないなと、想いに耽っていたら、いきなり「ちょっといいですか」とおじさん二人に声を掛けられた。
「は?俺?」
見上げてみると、何と驚くなかれ私服刑事。
ドラマみたいにピラリと警察手帳を見せると有無を言わさない雰囲気で「あの、どこから乗りましたか」と単刀直入に職務質問をしてくる。
やましいことなんてこれっぽっちもないのだが、思わず背中に緊張が走る、それでもハァ?という気持ちでいっぱいなのだから「へ?っていうか、なんで?」と聞いてしまった。
どっから乗ってきただと?そんなのは俺の勝手じゃ、喉元まで出掛かった声をぐっと飲み込む。
するとその私服刑事は「いや、ちょっと後ろ姿が似ていたものですから」とかなんとか意味が分からないことをおっしゃっている。
後ろ姿が似ている?誰に?だから、どうした?理由が不明瞭な上に、「よくわからんが、似てるだけで職務質問かっ」と憤慨極まりない気持ちになる。
でも、ここで一番大事なことは(というより人生においてひとつの格言だが)「警察に声を掛けることがあっても、声を掛けられた時はロクなことがない」であるから、単なる人間違いであろうと、そのちょっとした新橋駅で起きた珍しい経験自体を自分のエントリーから削除する。
「東陽町ですよ」というと「あっ、そうですか」とその二人は足早に視界から消え去って行った。なんだったんだか。
とにかく俺はそんな赤の他人に間違われるほどお人好しじゃないし、間抜けな生き方もしていないつもりだ、何処かで俺と似た奴でも勝手に追いかけていてくれよ、俺は俺でこれから呑みにいくから。
*
*
「野焼」は新橋のSL広場から数分程度の歓楽街にある。
10坪程度の狭い店の周りに焼き鳥の炭がモクモクと流れていて、夕暮れ時のサラリーマンが入り口を囲むように立ちながら呑んでいる。
入り口あたりではお客さんで埋まっているわりには、店内のテーブルはガラ空きだ。
どうやら、ここのお店で呑む連中は、わざわざ立ちながら呑むところに風情なり何かを感じているらしい。
僕らも右に習えでオヤジさん達の群れに入る。おぉ、テーブルの上にセッティングされている七輪で勝手に肉を焼いているオヤジもいるぞ。なかなかディープな感じ。
ビールを頼み、喉を潤してから、焼き鳥を、ねぎま、正肉、ハツ、カシラ、とり皮、やきとんを頼む。
それぞれ2本ずつ。ほどよく塩が効いている。
辛し味噌が盛られているので、それを付けて七味を振って食べる。
それから煮込み豆腐、トマト、あつあげをチョイス。
立ち呑みはキャッシュオンデリバリー(前払い方式)のところもあるが、ここは後払い方式。
ビールのあとは、ホイスという薬草エキスの混入した黄色い酎ハイを僕が頼み、てっちゃんがバイスという「コグマサワー」が製造しているビン入りのピンク色の梅紫蘇味のドリンク酎ハイに割って飲むお酒を頼む。あっという間にそれを飲み干し、梅サワー、バイスと続く。
話が大いに盛り上がり、そういえばまだ俺んち来たことないよねって話が進み、じゃあ、行っちゃう?ってことになり、店を早めに切り上げ、てっちゃん宅へ。会計4200円。まあ、安いといっていいだろう。
さて、京葉線に乗り、TDLを背中に半時間。閑静な住宅街。
近場の業務用スーパーでビール3本、日本酒1本購入で上がり込む。
なかなか長い夜になりそうだ。