2005年07月25日

八丈メランコリ(2)

八丈島で旅人達の障害ともなるのが移動の手段である。

島であるため、もちろん電車は走っていないし、島内を細々と網の目を縫うようにノンビリ動いているバスの数も極端に少ない。

我々も僅かな滞在期間ではあったが、それでもバスの姿を見なかったほどなので、よほどの少なさなのだろう。

野営場から一番近い食料品が売られているスーパーまで行くのに徒歩で30分ぐらいかかる。

移動手段として思いつくのが、この徒歩での移動。

徒歩だから足とサンダルと暇さえあればどうにかなるわけで、これが一番手っ取り早い。

でも、僕らは限られた時間で島ライフをエンジョイしようとしているわけだから、徒歩での移動は避ける(いや、実際に僕らは最初は歩いてみたのだ。そして一つの結論を導いた ─少しでもお金が掛かろうと、足以外の移動手段を考えようと─ )。

島での移動は我々にはいささかヘビーなようである。

次に思い付くのがバイク。

手練の旅人は50ccのカブを船に持ち込んで、そのバイクで移動をしているらしい、なるほど車の往来がほとんど見掛けない島だったら、それはさぞや気持ちよいだろう。風に吹かれながらバイクで疾走する。

ゴアやバリみたいだ。

でも残念ながら(そう実に日本に居ると〝残念ながら〟という言葉を使うようになる)、日本でバイクを運転するには、あの忌まわしき国土交通省だかなんだかが発行している運転免許証がないとダメなのだ。

ゴアやバリでも必要なのかもしれないけれど、そんなの所持して運転をしているアホは居ないし(特にゴア)、僕は持っていないにも関わらず、涼しい顔して運転をしていた。だから、バイク案も却下。

となれば残るは自転車か車かということになるわけだ。

自転車は免許が必要ないかわりに脚力と忍耐力と、徒歩ほどではないにしろ幾ばくかの時間を必要とする。コストパフォーマンスも車に比べたら安い筈だ、というのが僕らの最初の認識で、島に到着してから僅か数時間で、そのか弱い認識力は塗り替えられた。

レンタルサイクル1日:2100円/台
レンタカー3日:8000円/台

なのである。レンタルサイクルを必要としたら、人数も考慮して少なくとも3日間で16000円掛かることになる。雨が降らないとも限らない。

それに比べてレンタカーは3日で8000円だ。もちろん普通のセダンである。

我々がクラクラしたのは、さっき飲み干したビールと空腹のせいではないのは確かなようだ。

で、僕らの移動手段の最終決定に鎚を打ったのが、島民の決定的な、そして貴重な証言だった。

前述したように僕らは最初、徒歩で食料品が売られているスーパーまで移動した。いくらキャンプ生活だって、空から食事が降ってくるわけではないのだ。

「すみません、こんにちわ」

僕らが声を掛けると中から笑顔の気持ちのよいお姉さんが出てきた。

「はーい、いらっしゃい」

店の中に竈があるらしく、焼きたてたばかりの香ばしいパンの香りがする。お腹がギュルギュルと減ってくる。

「あの、ちょっとお伺いしたいんですけど、僕らいま底土野営場にテントを張っているんですが、夜に島の温泉に行こうとしていて、その、自転車を借りて移動しようと思っているです。で、もし自転車で移動したらどれくらい掛かりますか?」

僕らがそういうや否やお姉さんがケラケラ笑った。随分と明るい人である。なんか凄い楽しそうだ。ヒャッヒャッヒャーと店の中に笑い声がこだました。

「アッハハ。ありえないってぇ、お客さん、温泉には自転車でいけないわよ。もし行ったとしたら3時間以上かかるんじゃないかしら。せっかく汗を流したのに、またシャワーを浴びなくちゃいけなくなるわよー。」

「えぇ、そうなんですか?」

島の反対側に温泉が集中しているのは、WEBで検索したりしたから予備知識で知っていたけど、まさかそんな3時間以上かかるなんて。

「え、じゃあ、車で行かないと無理ですよねぇ」。

僕らはまるでよく訓練された文鳥のように口と目をパチクリさせて質問をした。

「そうねぇ。うーん、温泉に行くのであれば、やっぱレンタカーかねぇ。レンタカーあったら、島巡りも楽しいし、ラクだからね」

お姉さんはケラケラ笑ってそう言った。

ということで、僕らは「あそこ寿司」(なんて名前だ)という痺れるネーミングのお寿司屋さんの先にあるレンタカー屋さんに向かい車を借りた。

3日間で8000円。

ちなみに「あそこ寿司」では島の魚だけを料理した島寿司がある。ワサビではなく洋芥子で食べる八丈島独特の漬け寿司。これを食べないで島を語ることは許されない。

ピカピカの銀シャリに乗った小ぶりのネタ。ほんの少し醤油をつけて口に運ぶ。

完璧な寿司である。

閑話休題。

とにかく僕らは車を借りた。

レンタカー屋のオヤジさんはたしかにこう言った。
「帰る直前に返しにくりゃいいよ。そしたら港まで送ってやらサァ~」と。

僕らはなんとなく怖じ気つくような尻込みするような態度で面食らい会釈する。
島の生活。僕らの常識がかなわない。でもまるで悪くない。

島を降りて、まだ3時間も経っていない日の出来事である。

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投稿者 ko : 2005年07月25日 21:57 | トラックバック(0)
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