・リリー・フランキー「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」
「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」
福岡県に生まれ、筑豊と小倉で育った著者の初の長編小説。雑誌「en-taxi」で連載されていた同作品の単行本化。エッセイストとしても名を轟かせていて、その鋭い視点と時たまのエロとウィットに富んだ理論で、そして完璧なまでもの惚れ惚れする文章で多くの読者を掴んでいる著者が今回描いたテーマは「母親、上京、昭和」。
筑豊と小倉を舞台に、そしてやがて著者が東京に上京し、そこで再び始まる母親との共同生活。
いつも繰り広げられるその放埓なギャグとは違い、おそらく自伝となるこの作品、著者は恥ずかしくも自身のマザコンっぷりを披露している。
でもなんだろう、彼のマザコンは一人っ子であるがゆえの「お母さん想い」がしっかりと描かれていて、そして母親が自分の息子におくる「無償の愛」が作品にちらばめられているので、全然ベタついていないし、むしろ清清しい。
より作品の普遍性を高めている。
これは名作だ。
僕はどうしてかこの作品を読むたびに故スタンリーキューブリックが温めていて、かのスピルバーグが手がけた映画「A・I」のラストシーンを思い出す。この映画の根本的なテーマもまた「無償の愛」であると僕は信じているからだ。
小説中の北九州訛りのセリフが個人的に好きだ。どこかのコラムにあるのかもしれないが(確認はしていない)、この北九州訛りで纏められているおかげで本作品はエッジが際立っているのではないだろうか。それは九州から上京してきた人間の持つ故郷への掛け橋であり、拠りどころであり、東京に住む地方出身者のアイデンティティでもある。
ぜひお勧めしたい。
子供から母親に伝える最大の感謝がここにある。
きっと泣くだろう。でもそれは正しいことだ。