・作=フランク・ドビアス イラスト=ヘレン・バーナーマン 「ちびくろ・サンボ」
「ちびくろ・サンボ」
絵本を読むたびに思うことがある。いつかきっと自分の子供ができたなら、僕が小さい頃に読んで育った絵本をまた君に読んで欲しいなと。
それはとっても単純な理由だ。
僕が読んだ本を君に伝えたい。
なぜなら僕は小さい頃、陽だまりのなかでコロコロ転がりながら絵本を読んだり読んでもらったりするのが大好きだったからだ。「ぐりとぐら」の物語、「おおきなかぶ」、そして「ちびくろ・サンボ」のホットケーキ。
そう、「ちびくろ・サンボ」…。
僕は特にこの物語が大好きだった。
いや、この物語を読んでからこそホットケーキに強く憧れたと言ってもいいくらいだ。
クラクラするほど眩い黄色の虎。どこか遠い国の南国の風景。ビビットな原色豊かの椰子の木やジャングルの光景。愛嬌のある短パン姿のサンボ。
虎がぐるぐる回って溶けてバターになるシーンなんて、どうしていいのか分からないくらいだ。
お腹がギュルギュル減ってくる。僕のホットケーキ感はここに始まったと言い切ってしまいたい。
実はこの本、1953年に岩波書店から発売されたが、1988年に絶版となっている。120万部以上も多くの世代に愛されたこの絵本がなぜ絶版になったかというと、ご存知の方も多いかと思うが、物語中のサンボ君、すなわちその黒人少年が、人種差別に繋がると指摘されたからだ。
いわゆる「言葉狩り」である。
当時の社会的風潮に出版業界も逆らえず残念なことに書店から姿を消した。
でもこれだけのベストセラーだ。やはり惜しむ声もあった。復刊を望む声もたくさんあった。
出版社で長いトンネルのような検討に検討を重ねた結果、17年経ち、ようやく復刻となったわけだ。これは勇気ある功績だ。ひとつの布石となるだろう。
僕はこの物語に人種差別が潜んでいるとは思えない。
プライドを持たない者だけが差別を助長する。