1時間か2時間程度のドライブで周遊する。
島の観光センターでは島の名物である〝光るキノコ〟を鑑賞することができる。
元気が幾分減少しているエノキみたいなそのキノコは、真っ黒なフェルト布に覆われたプラスチックボックスに入っている。
人目を避けるように闇の世界に住んでいるそのキノコを僕ら鑑賞人は布に顔を突っ込むように近づいて、見るのだ。
「うっわぁ、すっげぇ。マジでピカピカに光っているよ」
ジメっとした焦げ茶色の腐敗土に聳え立つキノコはなんだか不思議だ。
どうして植物が蛍光色で輝くのだろうという疑問。
植物と言うよりは蛍光ゴムのようにも思える。僕らは思わず唾を呑む。
小さい頃に布団に入ったあと、ポケットに忍び込ませていつまでも覗き込んだ蛍光塗料が塗られたおもちゃを思い出した。まるで宝物をみつけたみたいな気分だった。
でもこのキノコは塗料が塗られているってわけじゃない。あるがままに光るのだ。
種の本能なのだろうか。だとしたら夜にもなお輝かんとするその菌類はいったい何から護ろうとしているのだろうか。
パーティ会場のデコレーションのようなので思わず20分間ぐらい見とれてしまった。「そろそろ行くよ~」という声でハッと目が覚める。
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次に訪れたのは島の頂上でもある八丈富士だ。よく晴れた日だったら、山の頂きから島が一望できる。で、そのよく晴れた日が今日ってこと。
ちなみに八丈富士の頂上には「八丈富士ふれあい牧場」があって、八丈島で愛飲されている新鮮な牛乳を生産している。
そしてここで有名なのがその牛乳で酪した「八丈バター」である。
豊かなコクがいっぱいの「八丈バター」は島民以外からの人気も高い。パスタに絡めても最高だし、鉄板焼きで包み焼きも素晴らしい。香り高いバターのコクが広がる。
でも残念なことに乳牛やバターの生産工程のコスト高の煽りを受けて、品質保持が難しく、もう生産を打ち切ったという話だ。
島独特の牧草を食べる乳牛から取れる独立したバターであるだけに、誠に惜しい話である。
実際に島内のスーパーでもチラホラ見掛ける程度でもあった。
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辿り着いた牧場では、ピューゴヒュゥゥと右へ左へ容赦なく強風が叩き付けて、まるで怒りを抑えられない竜神のようだ。
遠くのほうで風車が倒れていた。
足腰に力を込めないと吹き飛ばされそうだ。息をするのも苦しい。
飛行場と大自然が共存している風景。濃いブルーの海面がどこまでも続いている。
なんとかして駐車場から山小屋まで到着すると、数人の外国人バックパッカーが所在なさそうに牧場に散らばる乳牛の群れをぼんやり眺めていた。
珍しいのか、暇なのか、まるで表情からは読み取れない。
疲れているようでもあるし、充電しているようでもあった。
旅人というのは時々そんな顔をすることがある。
ふと思ったのが、どうやってこの人たちはここまでやってきたのだろう疑問だった。
車で来たような雰囲気じゃなかった。
「あいつらさ、もしかして徒歩でここまで来たのかな」僕がウシオに耳打ちする。
「いや、まさか。いくらなんでも、それはできないよ。だって、相当の坂だよ。」
その通りだった。車で登っても結構な急勾配だったのだ。
「でも、車がないよ。顔に生気がないぜ。あれきっと歩いてみたんだよ」
「そうなのかなぁ・・。」
不思議だった。それから僕は外国人バックパッカーは信じられないぐらい徒歩で何処までも歩くという話題に花を咲かせた。
事実、帰りがけに僕らがノンキに車を転がしていたら、彼らがとぼとぼ歩いているのが見えた。
やっぱしコイツら歩いてきたんだ。すげぇ。
ここから野営場まで行くのは夕方近くになるだろう。
大きなワゴンじゃないから乗せられないのが残念で仕方ない。
でも、僕らもそうやって旅先で歩いたものだ。ガンバレ。異国の人たちよ。