ロスト・チルドレン【1996年 フランス】
監督:
ジャン=ピエール・ジュネ(Jean-Pierre Jeunet)
マルク・キャロ(Marc Caro)
音楽:
アンジェロ・バダラメンティ(Angelo Badalamenti)
撮影:
ダリウス・コンジ(Darius Khondji)
キャスト:
ワン --ロン・パールマン(Ron Perlman)
ミエット --ジュディット・ヴィッテ(Judith Vittet)
クローン/潜水夫 --ドミニク・ピノン(Dominique Pinon)
クランク --ダニエル・エミルフォルク(Daniel Emilfork)
ミス・ビスムス --ミレイユ・モス(Mireille Mosse)
蚤調教師マルチェロ --ジャン・クロード・ドレフュス(Jean-Claude Dreyfus)
リーヌ(シャム双生児) --オディール・マレ(Odile Mallet)
ゼット(シャム双生児)--ジュヌヴィエーヴ・ブリュネ(Genevieve Brunet)
果たして、21世紀の渦中、コンセントに機器を指しこむだけでインターネットが接続できるこの時代に、どれだけ見世物小屋たるものが浸透しているのか、あるいは、記憶にあるのか、いささかの不安があるけれど、「ロスト・チルドレン」は奇しくも見世物小屋的な要素がたっぷりと含まれた、まるで公園で置いてけぼりを喰らった子供が脳みその奥底で描くような映画だ。
夢を見ることができないために急速に老けてゆくクランク、ドミニク・ピノンの演じる病的に薄気味悪い眠り病に冒された6人のクローン人間、小人のミス・ビスムス、不吉なおかっぱ頭の中年シャム双生児たちに、手回しオルゴールを使って賢い蚤で殺人を担うマルチェロ、そしてロン・パールマンが演じる巨人症気味な怪力男と対照的な美しさを持つミエット役のジュディット・ヴィッテ。
監督は、「デリカデッセン」「アメリ」のジャン=ピエール・ジュネとマルク・キャロ。音楽は「ツイン・ピークス/ローラ・パーマ-最期の7日間」「ザ・ビーチ」「マルホランド・ドライブ」などを手がけているアンジェロ・バダラメンティ、撮影は「セブン」のダリウス・コンジと、よくぞこれだけの逸材が集結したと唸らざるを得ないほどの豪華な顔ぶれ。
物語はジュネの得意な世界観であるSF的寓話からはじまる。
全体的にセピア色というかAGFAで撮影した昔見た夢のような映像で、鉄工場に古びた港、石畳の裏路地と石造りの民家の灯り、路地の川と階段のある迷宮な街、それが絵本のような御伽噺的に展開する。
サーカスで雇われている鎖をちぎるのが自慢の怪力男ワンはある日、謎の連中に弟のダンレーをさらわれてしまう。なぜか最近、街では子供の誘拐が多い。焦燥するワンはある日、シャム双生児の中年姉妹がボスである孤児の窃盗団に遭遇する。そこで出会ったミエットから彼の弟が一つ目族にさらわれたと知る。。。
御伽噺的な寓話を描く映画監督に例えばティム・バートンが挙げられて、ティムがハッピーなブラックユーモアに満ちた〝裏ディズニーランド〟とも見られる、言わば愉快な寓話で観客の心を捉えているとしたら、ジャン=ピエール・ジュネとマルク・キャロは、蓋をしたはずの見世物小屋が扉を開けてしまったような悪意のない悪夢を延々と観客にみせることに長けている。
too muchになってしまった午前3時の終わらないレイブ会場から届く曲がっているトランス音楽の光景、といえば分かる人には分かるかもしれない。
蚤の調教師マルチェロが奏でる狂ったオルゴールのようなサイケデリックなサウンドが、ギリギリの線上にある。落ち着かないそわそわとした気分になるオルゴールと阿片中毒者のようなマルチェロが回す木箱が「ロストチルドレン」の御伽噺的世界と見事に調和している。
フリークス的御伽噺度★★★★★
この映画はホントに映画らしい映画だよね。幻灯機って言葉が似合う。
>幻灯機って言葉が似合う
うん、ほんとに似合う。この映画を観て感じる郷愁はどこから来るものなんだろう?
「ロストチルドレン」、上映当時から7年ぶりくらいにDVDで改めて観たけど、やっぱりあの当時に感じた衝撃は変わらなかった。あの街に行ってみたいよね、絶対。