Judgment Night
昔々のそのまた昔のある時代、HIPHOPとロックとテクノというジャンル的境界線は絶対で、東西の冷戦問題のように熱くしたたかに相容れることのない、それぞれ独立した世界を持っていた。
お互いが敬意を払うまでに至らないまでも、自分以外の領域には足を踏み入れることもなく、穏やかに自分達の音楽環境を築いていた。
しかし、時が経つにつれ、その沈黙を破る、勇気そして己の挑戦を試す者が何人か徐々に台頭し、1曲の合作ながらも、強力に音楽史にゴリゴリと血を流すかの如く歴史を刻んでいった。
恐らく多くの者の一番最初に記憶にあるのが、低迷時代から復活を遂げるキッカケともなったエアロスミスの往年の曲を、RUN D.M.Cが手がけた「Walk This Way」(86年)であろう。
この曲は、僕が高校生の時に通っていたクラブでも、その当時ですら(つまりリリース後の数年を経ても)、掛かっていたので、よほどの人気があった。
あの頃、D.Jがこの曲を流すとたいていフロアが騒然として、女の子がキャーって叫んで、長髪の渋カジ(死語)がフロアにいっせいになだれ込んで、大騒ぎになったものだ。
そんなこんなで、音楽業界は、ミクスチャー音楽としてレッチリやレイジ~に代表されるバンドや、ナインインチ~などのインダストリ系など各要素を取り入れたバンドが台頭し、音楽市場もさまざまに細分化し、ジャンルで区別できないロックがロックだけで成立しない例も、現在となっては当たり前になった。
しかし、93年、まるで眠れる獅子を起こしたような、徹底的にハードコア、へヴィーメタル、スラッシュメタル、オルタナティブの90年代を担う蒼々たるバンドに、これまた90年代を疾走したHIPHOPのユニットが見事に融合したアルバムが一枚、電撃的にリリースされる。
しかも、それが映画のサントラミュージックのために集まった一枚だったのだ。
その名も「Judgment Night」(93年)。
やがてこの系譜は「SPAWN」(97年)、「BLADEⅡ」(02年)と続くわけだが(ちなみに全部ハッピー・ウォルターズという有名なおっさんがプロデュース)、すべてはこの「Judgment Night」に始まったといえる。
映画自体はコメントしがたい内容なのだけど、このサントラの素晴らしさを語ったら本当に尽きない。
コラボレーションなんて糞みたいな言葉は使えない。
とにかく、誰と誰が合作しているか見てみよう。
ヘルメット VS ハウス・オブ・ペイン
ティーンエイジ・ファンクラブ VS デ・ラ・ソウル
リヴィング・カラー VS ラン・D.M.C
バイオハザード VS オニックス
スレイヤー VS アイス-T
フェイス・ノー・モア VS ブー・ヤー・トライブ
ソニック・ユース VS サイプレス・ヒル
マッドハニー VS サー・ミックス・ア・ロット
ダイナソーJR VS デル・ザ・ファンキー・ホモサピアン
セラピー VS フェイタル
パール・ジャム VS サイプレス・ヒル見ましたか?どう考えても在りえない想像を絶する集まり具合でしょ。
マジでビビるメンツだ。
この連中にカツアゲされたら財布を渡すだけで済まされない勢いすらある。
バイオハザード VS オニックス が作曲した、アルバムのタイトル名にもなっている「Judgment Night」のシャウト聴いたら、絶対に血が騒ぐこと、間違いなし。
ジャンルなんて垣根をアッサリと超えている。凶暴な1曲。
サイプレス・ヒルも壊れているね。サイケデリックすぎるよ。それにソニック・ユースやパール・ジャムが絡むなんて。
当時はHIPHOPに優しくないロックな連中もこの一枚だけは認めたという、とにかく今後も語られるだろう名作。