何も知らないで批判するのはラクな作業なんだなと、出勤早々に犬井は思った。
いつだって当事者以外が、あたかも知ったことのように一般論を偉そうに語りやがる。
直截、俺に言うならまだいい。そうじゃないからタチが悪い。
なんだその満足げな顔は?良いことでも言ったつもりでいるのか?
お前にその事情を知る術はないんだ。
なぜ言うなりになったのかだって?
俺はアホじゃないんだ。お前が想像しているような議論などとっくにかわした結果が、コレだ。お前の考えているようなことは俺はとっくに考えていた。
その前に俺に一言言わせろ。
「で、お前はだれなんだ?」
自分の仕事に関係ない奴が絡まってくることに辟易した朝だった。
犬井は出向した大阪の会社で、あるプロジェクトを一任されたのだが、犬井の知らないところで、つまり犬井の上司のそのまた上司の管轄で、まるでプロジェクトにそぐわない確約がなされていたのだ。
もちろん何も知らされていない犬井は激怒した。
納得がいくまで説明を求めた。
しかし会社と言うのは不便な場所で、正論が正論たる場所ではないのだ。
結局、何も知らない上司の一言ですべてが台無しになった。
犬井は自分のスタッフにきちんと事情を説明した。犬井が納得できないのと同じくらいスタッフも納得できなかった。
当たり前だ。
これを納得しているのは俺ら現場の人間じゃない。
しかし、それとは別に犬井は怒りを覚えた。自分の仕事に関わったことのない奴がことさら知ったような口を叩く時だ。
犬井はそういうのを一番嫌った。
自分のスタッフや現場の人間の批判は気持ちよく受けよう。
そしてきちんと説明しよう。それは俺の役目でもあるし、話を聞くことは現場の人間の役目だからな。
だから犬井は思った。
「で、もう一度聞こうじゃないか。お前はだれなんだ?」
でも、まあ、いいさ。
ほとんど会った事もないし、会うつもりもさらさら無い奴だし。
一言いうんであれば、「お前には1ミリも関係ないだろっ」ってことだな。
英語ってのはこういうときに便利な言葉がある「It is not fuck'n your business」。
そう、イッツノット ファッキン ユア ビジネス。
関係ない奴はすっこんでろ。その満足げな顔は俺には恥の上塗りみたいに見えるぜ。
おおー 相変わらず読ませるッスなぁ。
思わずウォール街を思い描いてしまったオレはやはり間違っているのだろうか?
ありがとです。
ウォール街、実に近いっす。摩天楼はバラ色で、ニューヨークで恋しているのは田村正和。そんな勢いです。
でも、ウォール街とかって、実際に行ってみたら時化てたなんつうのもウケるよね。八百屋とか養鶏場しかねぇ、みたいな。