木がそこに立っていることができるのは 木が木であってしかも 何であるかよくわからないためだ
木を木と呼べないと 私は木すら書けない 木を木と呼んでしまうと 私は木しか書けない
でも木は いつも木という言葉以上のものだ 或る朝私がほんとうに木に触れたことは 永遠の謎なのだ
谷川俊太郎『木』(詩人)