L.Aのヴェニスビーチの端にイタリアンサンドウィッチの美味しい店があって、朝食を食べる時はその店でよく食べた。
燦々と太陽の眩しい乾燥した気候の西海岸の朝は爽やかで、絞り染めのTシャツや貝殻のネックレスを売る屋台が店を開ける準備に、アイスカフェオレを飲みつつ、談笑しつつ、作業をしている時間だった。
イタリアンサンドウィッチのお店を教えてくれたのは、部屋をシェアしたイタリア人で、あとからそいつは同性愛者、即ちゲイだってわかったんだけれど、金だけはしこたま持っていて、ヘテロにちょっかいを出すこともなく、レンタカー代とか全部そいつ持ちだったので、適当に世話になっていた。
シアトル発の濃いエスプレッソがまだ出回っていない西海岸において、イタリア系移民が営むレストランやカフェは貴重な存在だ。豆の芳醇とした香りが漂うカフェオレはヴェニスビーチの朝にぴったりなのだ。
その店で初めてパテを挟んだサンドウィッチを食べた。
バターの練りこんだ黄金色のバケットにレバーのパテと野菜を挟んだサンドウィッチは完璧な朝食のひとつである。
過ごしやすい西海岸の晴れた朝だからこそ最大限に美味しかったというのも理由だ。
臭みのない濃厚なパテは動物の肝臓から作り出されて、レバーペーストと呼ばれることもある。
このサンドウィッチにエスプレッソのダブルに泡立つミルクを注いだカフェオレ、カルフォルニアオレンジ。
5~6ドル(600円)程度だった。
朝食にしては少々高いが、テラスのあるカフェで新聞を読みながらローカルFM局のラジオに耳を傾けて、完璧な朝の時間を過ごす以外は冒涜のような気がしたのだ。
カルフォルニアに移動するまでの10日間、僕はこの店でサンドウィッチを食べつづけた。
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東京の渋谷に、このイタリアンカフェに近いサンドウィッチが食べられる店が1店だけある。
フランス主流の店となるが、渋谷東急本店の向かいがわに位置する「ヴィロン(Boulangerie Patisserie BRASSERIE VIRON)」という店だ。
フランス直輸入の小麦を使用して作り出されるバケットやケーキの数々は、宝石のような仕上がりである。
今も提供しているのかは分からないけれど、朝の12時まで食べられるプティ・デジュネ(ドリンク付きで1200円)は、日本で食べられるパンの朝食では最高の部類の朝食であった。
4種類のパンに6種のミオジャムとラベイユの蜂蜜、パティシエ手作りのチョコレートクリーム。
渋谷の喧騒に最も程遠いメニューであり、美味しいものを食べ続けるという飽食はこの街では罪ではない、という事実を知ることのできるレストランだ。