2006年02月23日

クラッシュ

クラッシュ【2004年 アメリカ】

監督:
ポール・ハギス(Paul Haggis)

キャスト:
ジーン --サンドラ・ブロック(Sandra Bullock)
グラハム --ドン・チードル(Don Cheadle)
ライアン巡査 --マット・ディロン(Matt Dillon)
リック --ブレンダン・フレイザー(Brendan Fraser)
キャメロン --テレンス・ハワード(Terrence Howard)
リア --ジェニファー・エスポジート(Jennifer Esposito)
フラナガン --ウィリアム・フィクトナー(William Fichtner)
アンソニー --クリス・“ルダクリス”・ブリッジス(Chris 'Ludacris' Bridges)
クリスティン --タンディ・ニュートン(Thandie Newton)
ハンセン巡査 --ライアン・フィリップ(Ryan Phillippe)
ピーター --ラレンズ・テイト(Larenz Tate)
カレン --ノーナ・ゲイ(Nona Gaye)
ダニエル --マイケル・ペーニャ(Michael Pena)
シャニクア --ロレッタ・ディヴァイン(Loretta Devine)
ファハド --ショーン・トーブ(Shaun Toub)
グラハムの母 --ビヴァリー・トッド(Beverly Todd)
ディクソン警部補 --キース・デヴィッド(Keith David)
ドリ --バハー・スーメク(Bahar Soomekh)
フレッド --トニー・ダンザ(Tony Danza)

 「ミリオンダラー・ベイビー」のポール・ハギスが贈る群像劇。人の心と心がぶつかることのないロスを舞台に、ある晩に起きた一件の衝突事故をキッカケに次々と運命を狂わされていく人々。

この映画の鑑賞後、何の脈略もなしに僕の身の回りに起こったある出来事を思い出した。

こんな話だ。

僕が16歳の時に、中学高校と一緒に進級した友人の父親が亡くなった。悪性の胃がんが原因で、入院してから僅か数ヶ月の出来事だった。僕らは入院したんだよねというあたりまでは知っていたけれど、まさか癌だったとは聞いていなかった。つまり、まだ高校一年生だったその友人にも父親が癌であること、その命が残り少ないということは最後まで伏せられていた。

クラスはもとより、学年中でお騒がせな目の外せない愉快な彼の家族に起きた悲劇だった。

そして、彼の父親が亡くなったその晩に友人から一本の電話が掛かってきた。

「なぁ、俺のお父さん、死んじゃった」

僕と彼を含め、だいたい5人6人で毎日ツルんで遊んでいたので、僕らは非常に仲が良かったわけだけれど、なんとなくこういった電話を受けるのは僕じゃないとおぼろげながらに感じていた。

僕と彼とはバカ騒ぎをして日々を過ごす仲間だったが、それ以上でもそれ以下でもなかった。そこにはシリアスな感情が存在しなかった。

突然の電話と、普段の彼には程遠い重たい声に、僕は驚いてなんと言っていいか分からなかった。

彼は続けた。「とりあえずさ、明日学校は休むから言っておいてくれないかな」

「分かったよ。俺がちゃんと言っておくから。それは大丈夫だよ」

居間で電話を取ったからだろうか、家族に聞こえているんじゃないかと、僕は恥ずかしくとも情けない気持ちになり、他人行儀なことを口にした。

僕の家では大きな音でバラエティ番組が流れていてみんながそれを見て笑っていた。

「そっか、ありがとう。なんか迷惑掛けてごめんな」

彼は僕に申し訳無さそうにそう言った。いつもの彼らしくないしおれた声に僕も泣きそうになった。

「それよりさ、ほら、何て言っていいのか・・・」
僕はその言葉を続けられない。なあ、俺らがいるじゃないか、その一言が言えなかった。

僕は彼に何かしらの言葉を向けるべきだったのだ。

彼が涙を堪えて、僕に電話をしてきたその理由を僕は察することはできた。

学校を休むという連絡だけで彼は僕に電話を掛けてきたんじゃない。

彼は何かを求めていたのだ。普段共に生活している友人からの温かい言葉を。

でも、僕はその時の彼に対して、伝えたかった気持ちの何十分の一にも満たない拙い言葉しか掛けることができなかった。

僕は自分が悔しかった。

そして後ろにいる家族を妙に意識しながら電話を切り、一人で部屋に戻って深い悲しみに覆われた。

*
*

15年以上経った今でも時々僕は、僕の古い友人が電話を掛けてきたあの晩のもどかしい気持ちに戻ることがある。

やはり僕は受話器を握っていて自分の伝えたい気持ちのほんの僅かな部分しか伝えられていない。

そして僕は受話器を切る。ガチャン。

僕はまだ受話器を握っている。そんな空虚な気持ちになったとき、僕は愛しい人とただじっと抱き合うようにしている。

映画「クラッシュ」にも、さまざまなもどかしい気持ちを抱えた人物達が登場した。傷つけないように努力し、でも傷つけあわずにはいられない主人公達。彼らには、救いがある場合もあるし、赦しはあるけれど救いがない場合もある。

ただ、彼らは一様に哀しみ、誰かを求め、愉び、そして泣いていた。

伝えたい気持ちを誰かに伝える。L.Aで起きたたった一つの衝突事故が引き起こした物語。あなたは誰に一番近いだろう。

群像劇★★★★★

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投稿者 ko : 2006年02月23日 19:19 | トラックバック(0)
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