アゲイティス・ビリュン(シガー・ロス : Avex 2001)
夜の21時から翌日の昼過ぎまで踊り狂い、ふと、何気なしにあたりを見渡した時に感じるパラノイア。
世界が全て繋がっているようで同時に分裂しているような、景色に刻み込まれた森羅万象の情報が剥き出しに見える瞬間。
触れただけで声が出てしまうくらいに怯える針葉樹の影。
枝が風に揺れてカサカサと音を立てると世界が一斉に微笑している気がする。
そして、時計を見ると12時12分12秒。
どれだけ目を凝らしても秒針は進みもしないし遅れもしない。
もしかしたら僕自身がもう既に止まっているのかもしれない。
シガー・ロス(Sigur Ros)のアルバムは全てこうだ。
彼らが荒涼とした心の闇を揺さぶる音を奏でるのは、何もメンバー全員がアイスランド出身だからではない。
弾けることを望んでいるかの緊張感。
彼らは鬱の塊を吐き出すようにそれを増殖させることができる。まるで抑えていたトラウマが何かの加減で氷解したように。
彼ら以外にこんなことができるのはレディオ・ヘッドぐらいなものだ。でもそれは実に妙を得ている。
なぜならシガー・ロスは、レディオ・ヘッドの来日公演のときに前座を務め、一気に日本国内で注目を浴びたのだから。
ヴァイオリンの弓で奏でられる憂鬱な気だるいギター・サウンド。寂寥感がいやおうなしに漂う。憂鬱な冷たさから想起される神秘的な音色。稀有なバンドである。
1曲目からシガー・ロス以外には紡ぎだすことが決して出来ないであろうアイロニーな壮美的音楽が流れるので、そっと耳を傾けて目を閉じたい。
彼らのPVも必見。このアルバムの7曲目に収録されている「vidrar vel til loftarasa」のPVはキスをして愛し合う少年同士の物語。透明な雰囲気で幻想的。ひとつの短編映画みたいだ。