太陽が照りつける快晴の一日より、どんよりとしていて、雨がシトシト降り続き、まるで世界中の全てが静けさに包まれているようなシンとした一日が似合う店というのがある。
僕が知っている店でもそんな店が二軒あって、どちらも喫茶店だ。
軽く食事も食べられて、店内では静かな音楽が流れ、窓の外の景色をつらつらと眺めるか、本を読むような雰囲気の店である。
一軒めは東京の渋谷。109をさらに坂を上るとラブホテル街が立ち並び、昼も夜も道沿いをカップルが往来している一角になぜか時が止まったかのような古めかしい建物がある。
昭和元年に創業したその喫茶店は、名曲喫茶としてその界隈では知らない者がいない、聖地的な威厳を持った店である。
しっとりとした足音を吸い取る絨毯、ゴージャスなシャンデリア、最高品質のスピーカーから流れるクラシック。
雨が降る昼下がり、2階の窓辺の席で雨のしずくを何も考えずに見つめて、匙で珈琲のカップをかき混ぜ、時を過ごすのはなかなかの贅沢、というものだ。
もう一軒は、神奈川の湘南にある。最近は忙しくてなかなか訪れることがなく、なんだかんだで、かれこれ8年ほど経つ。残念きわまりない。
いまもこの店があるのか幾度となく確かめようと思うものの、その度に夏が過ぎていった。
国道沿いにある、山小屋といっても不思議じゃない店の2階席からは海が一望できて、天気さえ良好だったら大島・神津島あたりまでは覗うことができる。
夏の夕暮れ間近にサッと降るスコースがアスファルトを冷まして、車がテールランプの航跡の伸ばす。
FMラジオから小さな音で天気予報と時間を知らせるニュースが流れている、そんな店だ。
夏なのにどうしてかこの店では熱い珈琲にミルクたっぷり入れて飲むことが多かった。
シャワーを浴びて、シーブリーズを肌に浸み込ませ、洗いざらしのTシャツを羽織った後に飲む珈琲が身体に優しい。
ダンスするみたいに地面で跳ねる雨をいつまでも見ながら次の休日の過ごし方に思いをはせて。