僕の友人にS君というのがいて、乙女チックな顔つきの割にはけっこうタフなことばかりやっていて、ヒッピーまがいのことをしたり、無銭でヨーロッパに渡ろうと計画したりと、常日頃から観察していないと何をしでかすか分からない気の許せない奴だ。
しかも、最近は、やたらと必要以上に長けている薬学の知識を自らの身体で試した影響なのか、「ラジオが俺のことを観察している」と、非常に周波数の高い発言で周囲からますます一目を置かれるようになっている31歳の男である。
その彼と久しくぶりに先日会い、タイ料理なんてものを食べつつ、談笑して、近況について話したところ、お勧めと称する「7つの習慣—成功には原則があった!」という題名の本をぜひ読めと力説する。
いつも彼は、自己啓発系統の本を紹介してくれるのがお決まりで、俗にいうポジティブシンキング・マニアである。
片っ端からその手の本を、まるで木をなぎ倒すように読み漁り、その瞬間に一番〝効いている〟本を誰かをひっ捕まえてゴリ押しする。
もう何年もそんな本ばかりを紹介されているので、ほとんど題名を忘れてしまったけれど─僕はその手の本を読まないのでいつも『あー、うん、脳が溶けてしまいそうな暇があったときに本屋に行ったらちょっと見てみるよ』と返事をしている─覚えているだけでコレぐらいの本を教えてくれた。
「お金と才能」がないほど、成功する52の方法 --中谷 彰宏
金持ち父さん貧乏父さん --ロバート キヨサキ
人生に役立つ論理力トレーニング --渡辺パコ
「金持ち」発想ですべてはうまくいく!成功を呼ぶ賢い頭の鍛え方
--臼井由妃
「好きな人」ともっとうまくいく20の方法 --ドイル・バーネット
思考は現実化する --ナポレオン ヒル
成功の9ステップ --ジェームス・スキナー
もちろん紹介された本はこれに留まらず、貧困を救うとか砂漠化を止めるとか、さまざまな本があった。
どう低めに見積りを算出したところで、人生がいくつあっても足らないような感じである。
で、今回紹介の本がこれ。
個人的体験から、僕は小さいころから〝夏休みの計画〟やら〝漢字検定受験〟とか、とにかく計画を立てるだけ、受験をするという行為だけで、満足して自分がエラくなったように勘違いするタイプだから、この手の本も読んだだけで満足してしまい、結局のところ、〝あとにつながらない〟ので、読む気が全然しない。
彼なんかも、よくこういう本を読んでいるわりには、キャバクラで出入り禁止になったり、アコームちゃんプロミースちゃんをしたりしているわけだから、読まなくても大して俺と変わらないじゃないかと内心思いつつ、実際に指摘もしちゃうわけだけど、そのへんはやはりポジティブシンキング王、そういうのは取るに足らないことらしい。
「それより地球だよ」と彼は言うけれど、地球が危険にさらされているのを警告する前に、僕としてはどうしてキャバクラで出入り禁止になるのかを考えたい。
ところでポジティブシンキングについてこんな格言があったので抜粋。
結局のところ、ポジティブ・シンキングというのはマイナスの部分を単に無視しているだけなのだ。 だからそれ以上の進歩は望めないことになるし、問題が大きくなっていくだけだ。(大野裕)
拡がりというのは陰と陽が一体となり成立するのかもね。
僕は「世のなかの事象がすべて、それだけ独立してあるのではなく、陰と陽という対立した形で世界ができあがっている」とする陰陽説に親密さを感じる。