夏が近づくにつれて、友人と杯を酌み交わす機会が増えるというのが最近の毎日で、週末ともなれば、泥酔に限りなく近い酔っ払いになって、翌日の休日を枕を抱えて頭痛と戦うことにも慣れてきた。
酒席に女子の一人でも居れば、「やっぱ、デフテックってナイスで気持ちよいよね」なんて、聴くこともないだろうバンドの音楽話ひとつで、気の利いたことも言えるのだけれど、たいがいが混じりっけのない純度100%な野郎だらけの呑みなので、「やっぱデブフェチってなかなかキモイよね」と、知能のかけらも見当たらない会話で時間を過ごすことになっている。
先日、〝電子メールを海外に送信したら国際料金が取られるんじゃないかと去年まで心配していた〟友人と、新大久保の職安通りにある日本語のまるで通じない韓国レストランで、「早くキムチを持ってくるスミダ!」とか言いながらマッコリを片手に呑んでいたところ、その友人が突然、「いまはシスか?」と聞いてきた。
聞き間違いの程度どころか、意味不明でついてこれなかった。
渋谷の109のてっぺんにはFBIが潜んでいるのを知っている!と普段から特殊な極秘情報を持ち合わせている彼だからこそ、あー、いよいよイッちゃったかな?と、彼の頭をチラっと確認して、心配そうに見守っていたのだが、事情を聞くと、どうやら現在の心の拠っている位置が〝シス〟なのか〝ジェダイ〟なのか考える機会が最近増えたらしい。
〝シス〟〝ジェダイ〟というのは、映画『スターウォーズ』に出てくる用語で、簡単に言うと、シス=悪、ジェダイ=善ということになる。ジェダイとしてはルークスカイウォーカーとかで、シスといえば、最後まで悪者だったパルパティーンが有名。
つまり、彼は僕に「いまは悪なのか?」と聞いてきたわけだ。
善も悪もなくて、キムチが辛いだけだっつーのとか思いながらも、僕自身、次に生まれるとしたらジェダイマスターとして人生を全うしたいと常日頃から思っていたので、「・・・いや、いまはジェダイだよ」とだけ答えておいた。
すると友人がビシっと僕を見据えたかと思うと小さく呟いた。
「そうか、俺はいま、シスになりかけたよ」と言った。
僕は一気に心配になった。唐辛子が脳まで達しちゃったのかと不安になった。
「え、ど、どうしてかな・・・?その、なんでシスになりかけちゃったの?」と僕は尋ねた。
シスかジェダイかと区別したら、どう考えてもこの時間はジェダイだろ。そう思った。
話している内容だって不穏な会話なんてなくて、彼独自の巨乳論を僕に説明する楽しいひと時だっただけに、ことさら疑問だ。
「俺もさっきまでジェダイだった。でも、アイツが俺をシスに誘ったんだ」と、友人は奥の座敷に陣取っているアジア系ミニスカート女性に囲まれた一人の男性を指した。
昭和を激しく思わせるスラックスとサングラス。指の数がちゃんとそろっているのか疑わしい男性が中心の、グループ。
たしかにこのお店で最初から目立っていたけれど、席だって離れているし、僕らがなにか被害を受けたわけではない。寧ろさっきまでチラチラ見えるパンツに喜んでいたのは僕の友人なのだから。
「俺、ちょっと行ってくるわ」と友人は席を立つとその座敷に近づいた。
ちょっと待った!と言うまもなく、「うぬぬぬぬー。お前らはパルパティーンかーー!?」と、友人はそのグループに向かって叫んだ。
店全体が凍って、僕の血圧が100ぐらい下がって、寿命が3年縮んだ。
う、ダメでしょ、この人。
僕はそう思うや否や、日本語の通じない韓国人アルバイトに身振り手振りでチェックを済ませるようにいい、友人を引きつれて早々と夜の闇に消えていったのだった。