2006年08月01日

あなたの知らない新倉イワヲ

20060801a
梅雨が明けるかどうか、サッパリ予想が出来なかった2006年の7月。


心配する声が洩れていようが、今年も例年と変わりなく海へと出向いた僕と友人2人。

今年はせっかくだから毎年訪れている茅ヶ崎より先に行こうということになり、半島の手前ぐらいまで行って泳いできた。

いつもと変わらないゲーム(ひたすらワカメをぶつけ合うワカメゲーム)も、お決まりのジョーク(お菓子のコロンを太陽の熱で暖めたあとに、ユルユルになったゲル状のコロンの中身を寝ている奴に吹き付ける)も終了して、3時ぐらいには海を上がりご飯を食べようということになった。

土地勘がまるでない僕らは、友達のエスティマを行ったり来たりさせて、結局、なんだかちょっとはカレーが〝売り〟かも知れない風の店に入って、カレーを食べようとした。

カウンターとテーブルがある店で、時間帯も関係していたせいか、顔見知りの人がビールを飲んでいるだけで、お客さんは僕らだけだ。

旨いのここ?不安になりつつも僕らはテレビの横にあるテーブルに座り、今日の海の出来事や最近の話や昔話をとりとめなくも続けた。

しばらくして店員が(いかにもリゾートバイトをしています的な日焼けしているギャル)僕らのテーブルにお冷を持ってきた。

僕らは何ひとつ悩まずに全員一致で恐らくは〝売り〟であろう、自家製オリジナルチキンカレーを頼んだ。

「かしこまりましたぁ。チキン3つ~~」

店員が厨房にそう告げたあと、僕らはまたとりとめもない会話の続きを再開して楽しもうとした。

「つーかさ、マジでさ、もうアレは水着っちゅうか、法律を潜り抜けているエロだよね」

しかし、そこになにか違和感があった。

お冷が4つ?

僕らは3人で来ているのに、さすがにこれは可笑しい。

注文ひとつ取れない店なのかぁ?それとも、おいおい、巷に頻繁に聞く怪談話かっつうのとか言ってボヤきまじりにギャル店員に「1個多いんですけど」と伝えると、???みたいに首を傾げてその水を取り下げた。

はっ、あいつの態度はなに?

一瞬、そんなことが過ぎった。

しかし僕らは海に来たというエンジョイパワーが効をなして、ウカレ的要素のほうが強かった。

今日、海で見た水着は本当にすごかったのだ。エロカワイイじゃなくて、あれは〝エロい〟なのだ。まだまだ話し足りない。

水なんて何個でももってこい。カレーが来る束の間ですら、お冷1つがギャグに成り代わって会話のネタになっていた。

そして、いい感じのカレー・オブ・スメルが塵のように店の中を漂った。

僕らの期待感がより確信となって高まりつつあった。

ここ、けっこう旨いかも。

で、お腹がどんどん減って、まだかなぁと思っていたその数分後、入り口近くのピンク電話がリンリンと鳴った。

レジ近くに居た女主人が電話を取って何やらを話していた。

「はい、え、・・・ですか?ちょっとお待ちください」みたいな雰囲気で電話を置いていた。

ただ事じゃなさそうなオーラにウカレモードの僕らもちょっと注目した。

「オレオレ〝カレー〟詐欺だったりして」

「ギャハハッ」

しかし、電話を取った女主人が向かってきたのは、僕らのテーブルだった。

僕らはぎょっとした。

「すみません、お客様のなかに***さんっていらっしゃいますか?お電話なのですが」と突然訊ねてきた。

***さんっていうのはまさに僕の友人の名前である。

「え?俺ですけど・・・。」友人が驚きを隠せずにそう言ったあと、だらしなく笑っていた僕らは一気に身体を強張らせた。

え、なに?何が起きてるの?どうして俺らがここにいるのを誰かが知っているの?

全然、状況がつかめない。

3人揃ってしばらく見詰め合うと、意を決したように友人が電話を取りに近づいた。

*
*

これはその友人が僕らに電話の内容を教えてくれたものだ。

先に言うと友人は担がれることはあっても人を担ぐような真似をしないタイプだ。僕は、そう思う。

音が酷く荒れていて、どこか遠い場所からかけてきている様子だったそうだ。携帯の電波が1本ぐらいしか立ってないところから電話してきている感じと、友人は言った。

「も・・・もし・・もし。Aだけど・・・。俺さ・・・ちょっと・・行けないから・・・みんなで先に食べててよ・・・。ごめんな・・・。」

ツーツーツー。

そう言った後、電話が切れた。

「い、いまの電話さ、Aからの電話だった・・。」

顔面蒼白に泣きそうになった友人が残った僕らに言った。

「そんな馬鹿な!」
「聞き間違いだろ」

代わる代わるに僕らが批判した。

「いや・・・・。忘れるわけがねぇ。アイツの声だった」

水を飲もうとしている友人の手がカタカタ震えている。

Aという友人は、僕らが19歳の時、甲州街道沿いでバイクで事故り、還らぬ人となっている。

僕らは3人揃って葬式にも出た。

電話に出た友人はたしかにAと一番仲良かった。

心臓が高まって鳥肌がブワーと立った。

そしてすぐさま、さっきのギャル店員がお冷を4つ持ってきたのを思い出した。

席は僕のとなりだ。

僕らは全員ガタンッと勢いよく立ち上がり、その席を見た。

絶対に濡れていないはずの椅子が海水でびしょびしょに濡れていて、まるでさっきまで誰かが座っていたような様子だった。

カレーの匂いどころじゃない。全身がチキン肌だ。

で、店員がもう一度僕らのテーブルにお冷を持ってこようとした。

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投稿者 ko : 2006年08月01日 19:19 | トラックバック(0)
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