かつて六区と呼ばれた浅草にある「正ちゃん」。
伝報院通りに並ぶ名物の牛スジ屋とは異なる、前史の遺産みたいな煮込み屋。
夏でも冬でも一辺倒のオープンエアー。横文字にしてみると耳障りがいいけれど、要は吹きさらしである。
周りにあるのは浅草のJRA。
道端に寝てしまっている競馬で摩った親父さんとか、ワンカップ片手に朝から晩まで路上で飲み明かしている連中とか、アバウトな匂いがプンプン立ち込める、まるで中期の「こち亀」に出てきそうな下町っぷりの店である。
この店の名物といえば牛スジ。牛スジの煮込みか牛めし、そして煮込みうどん。
飲み物は夏でも冬でもカチ割り氷のホッピー。
で、ホッピーに入れる焼酎は20度だ。これが定番である。
この店は僕の中学生の頃からの憧れの店だった。いつかは行ってみたいとずーっと願っていた。
きっかけは近所で購入した「CHEAP CHIC MANUAL(チープ・シック・マニュアル)」という本。
今で言うところの東京ガイドブックのような本だ。
刊行されたのは昭和62年(1987年)、古着屋やアンティーク家財の店や映画館などのネットもない時代のウォーカー的バイブル。
この本の記事の中に「正ちゃん」が出ていたのだ。こんな具合に。
店には戸もなく、吹きっさらし。
店頭の大鍋には牛筋の煮込みがぐつぐつ。路上にはみ出たイスに座ったら、「煮込みとホッピー」と頼もう。
お皿にたっぷりの煮込みとカチ割り氷のホッピーが即、出てくる。この界隈、煮込みを出す店は多いが、「正ちゃん」の煮込みには牛筋、コンニャクのほか、大きなトーフが乗っかってる。
牛筋は3年前から煮続けてると言われてもうなずいてしまうほど柔らかい。
冷房なんか入れない店だからこそ、ホッピーのカチ割り氷がうれしい。
この店の客層は、神谷バーとは違っていて、「愛すべきガラッパチ」という感じだ。
競馬新聞持って、耳に色鉛筆をはさんだ親父さん、今日も仕事にありつけなかったおじさん、パチンコで擦っちまったお兄さん、ここでは、午後3時ごろからいろいろな人々に会える。
これこそが僕のアルカディアであり、夢見る理想郷だった。
「正ちゃん」って、どんなところなのだろう。想像が膨らみ、何年も時が過ぎたのだ。
そして先日、ふと浅草を訪れてみれば、何と「正ちゃん」は現役で健在だという。
行かなくちゃ。すぐにそう思った。
だって、ここで行かなかったら、人生には一体何が残されているというのだ?
写真は牛煮込み(400円)。
トロトロに煮込んである牛スジと味が染みている豆腐のハーモニー。
相当な時間をかけて煮込まれただろうスジは、箸で掴むのがやっとというぐらい柔らかく、ネギ、玉ねぎ、醤油やざらめ、そして酒で煮込まれていて感無量。
こちらはホッピー(400円)。
冬でも夏でもこんなジョッキになみなみと注がれた焼酎とカチ割り氷が運ばれてくる。
焼酎の中身のお代わりは230円。一杯飲むだけでクラクラ。
そして締めの牛めし(500円)。
アツアツのご飯に先ほどの牛スジが乗っかっている。
テーブルに唐辛子を砕いた真っ赤な薬味があるので、振りかけて、煮込みとご飯を混ぜて食らう。
チェーン店では出せない少々脂の乗った牛めしは大人の味だ。
↑昼間からの賑わう、愛すべきガラッパチ達。
正ちゃん
台東区浅草2丁目7-13
月曜、火曜、定休
11:00~24:00
牛煮込み --\400
牛めし --\500
牛肉うどん --\500
ホッピー --\400
ガラッパチ写真凄いね。アメ横にもこんなところあるよね。ガード下の昇龍の辺り。
なんか酒&ツマミにいてもたってもいられずコメント。
牛飯美味しそう♪
うん、アメ横に通ずる不思議なパワーがあるよ。ウチの近所とかとまるで雰囲気が違うので、浅草に行くと23区ともいえども広いんだなーって思います。
煮込み超食いてぇ。
モツだったらなお良し。
モツ食いたいっすねぇ。涼しくなったらモツ食いに行きましょうよ。
新橋あたりで、ネクタイを鉢巻代わりにしてw
きっと楽しいはずです。