2006年09月06日

焼き鳥屋と報道

重大な事件や出来事のニュースをテレビを通じてリアルタイムに知るという体験は、オウム事件やテロの報道、古い出来事ではホテルニュージャパンの火災など枚挙にいとまがない。

即時性に優れ且つインパクトな出来事をテレビを通じて知るというのは強烈に心に残って、ブラウン管越しより伝わる光景が、ニュース性を生み出す。

『番組の途中ですが・・・』と、突然に画面が報道センターに移り変わるあの瞬間。

何ともいえない目を見張る緊張である。

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1997年6月28日。

その日はいかにも梅雨の終わりといった感じの、とっても蒸し暑い日で、僕は予備校時代の友人、深tetsu、Konさん、ビリー、ケンシン、ACOちゃんの合計6人で、その頃拠点にしていた新宿の思い出横丁にある焼き鳥屋に集まって、ワイワイとビールを片手に飲み明かしていた。

誰もが同じ大学に通っていない割には頻繁に呑む間柄で、予備校を卒業(っていうのかね)しても旅行に出掛けたり、呑み会を開いたりして仲良く遊んでいた。

ケンシンとACOちゃんは短大に進学したから、もう社会人だったけれど、この日のように土曜日だったら顔を出せるのが僕ら大学組としても嬉しいことだった。

酒をガバガバ進み、気兼ねなくガハガハ笑いながら、茅野にあるバンガローにみんなで泊まりに行った時、Konさんが泥酔して『俺に学歴は必要ねぇ』と泣いた夜のことや─ちなみにKonさんは社会人アメフトの日本一で全身筋肉の塊のような男である─、ビリーが頭を丸めたらオウム真理教の新見被告に間違えられてしまったこととか、僕が初対面にも関わらずみんなと旅行に出かけ、酔っ払い暴れまくったことを、毎度のように酒の肴にして、話し込んでは大爆笑していた。

その思い出横丁の焼き鳥屋は2階建てで、すぐ近くにJRの鉄道があるから、電車の音がガタゴトと聴こえてくる。ボロボロのテーブルがあって、店内に煙がもうもうと立ち込める時代錯誤な雰囲気が妙に居心地がいいところだ。何組かのグループが1階で呑んでいて、熱気ムンムンに酔っ払って嬌声を挙げていた。

『そんでさー、俺が腹が痛くなったと思ったら、コイツも超腹が痛いとか言い始めてさー』僕が深tetsuとタイに行って、2人とも脱腸しちゃったかもしれないレベルの下痢に見舞われた話を続けていたら、例の『番組の途中ですが・・・』が流れた。

『番組の途中ですが、警視庁は兵庫県神戸市で発生した連続殺人事件の犯人、近所に住む14歳の少年を逮捕しました』

その瞬間、店の外まで響き渡るほどのガヤガヤしていた連中が固まって、誰も動けずにテレビを見つめた。

テレビの報道センターの慌しい様子が伝わってきた。

店が一気にシーーーッンとして、誰かが小さく『14歳って言った、いま?』と隣の人に確認していた。

僕ら6人も焼き鳥の串を持ってピタリと固まった。

焼き鳥の焼ける音だけがジッジと音をだしている。

炭をおこしている焼き手のお兄さんは手を止めて画面に見入ってた。

当時誰もが関心を寄せて止まない凶悪事件の幕切れを垣間見た。

それも14歳の逮捕劇という前代未聞の結末で。酒鬼薔薇は中学生だった。

報道映像が映し出される間、素性も知らない連中が、新宿の片隅にあるバラックみたいな焼き鳥屋で、事件の結末を知る傍観者となったことの親密な空気が流れた。

突然結末を迎えた14歳逮捕の報道で、店全体が妙な臨場感と昂奮に包まれた。

神戸から遠く離れた東京の新宿の空のもと、たったひとつの報道で、僕らはその連続殺傷事件に無関係とはいい難い、それは自身の身に起こった自分の事件として奇妙なまでに深く関与したのだ。

それは本当に不思議な一体感で、何とも言いがたい体験であった。

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投稿者 ko : 2006年09月06日 19:19 | トラックバック(0)
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