あえて名前を伏せて紹介すると、我が家の近所にある商店街の某お蕎麦屋さんが、最近お気に入りである。
名前を伏せる理由は、別にもったいぶっているわけでもなく、どうもご主人がグルメ本などでの紹介を好まないらしく、しかもその理由は、よくある頑固系のノリというよりは、「ちゃんと一人ゝのお客様に接して、きちんとしたものを良心的な値段で提供したいから」といったポリシーを持っての上であるらしいのだ。
3回ほど現像を出せば、近所のカメラ屋さんとすっかりと仲良くなれる狭い我が町内の噂で耳にした。
だから、一応、この零細サイトでも遠慮して名前を伏せているのである。
商店街の入り口に位置する、和風の蔵屋敷を思わせる造りの店は、扉を開けると座敷が右手に、左手に重厚な一枚板のテーブル席が3つほどある。今時見かけるのがすっかり珍しくなった白い土壁に囲まれた店内は、静かな雰囲気で、耳を傾けるとジャズあるいはインストルメンタルがゆったりと流れている。
名高い店や由緒ある店独特の、<かしこまった空気>が流れていると疲れてしまう僕は、そういう「有名店らしい振る舞い」とか「それ相応の対応」を店側や先に入店している客に無言で求められてしまうのが苦手で(別に強制されているわけじゃないんだけどね)、そんな空気を察知すると、わざとらしく破壊工作を企てるやっかいな客なんだけれど、この店はけっしてそういう無言のお行儀さを求めてくるわけでもない。
暖かいもてなし、居心地の良い空間、静かに都会の喧騒を忘れさせてくれて、そういった目に見えない柔らかい何かを店が提供してくれるのだ。
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席に着くと、まろやかなほうじ茶と一緒に、突き出しの代わりだろうか、蕎麦を油で揚げて塩で味付けしたのが、小さな手かごに乗って登場する。岩塩がまぶしてあるこげ茶の蕎麦は、香り豊かで、お茶うけにぴったり。初めて暖簾をくぐるお客さんは、まずここで期待が高まること間違いなしである。
蕎麦は濃くて太い。田舎蕎麦、つまり「挽きぐるみ」である。
「挽きぐるみ」とは、蕎麦の実を取り分けないで、そのまま三番粉まで挽き込んだそば粉である。
甘皮も挽くので色が黒っぽい。この太い蕎麦が蕎麦つゆと抜群の相性のよさ。
濃い出汁が下地となっているつゆでズズっとすすると蕎麦に適宜に絡まって最高なのだ。
そして、天ぷらのレベルが、天ぷら専門店にひけをとらない美味さである。
新鮮な旬の素材を薄い衣で揚げた天ぷらは、まさに絶品。
塩でいただき、天つゆでいただいて、ため息がこぼれる。
ちょうど、きのこが美味しい時期に舞茸の天ぷらを頼んだことがあり、その時は天国に昇りつめちゃうんじゃないかという感動がそこにあった。
野菜ひとつとっても、ハスだったらシャキシャキ感を生かし、ナスだったらジュワっとまろやかさを演出。
穴子のホクホクした白身を箸でほぐすだけで、嗚呼・・・。
店内での携帯電話は禁止。でもべつに肩肘張ったわけでもない。自然とそうなるのだ。
味は最高。1500円もあれば問題ないという懐も安心。そして、地元の人に喜ばれるのをモットーにしているという潔さ。
食べてみたい方はご連絡くださればいつだってご案内しますよ。
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