2006年12月25日

深い衝撃

パドックを競馬場で馬の下見をするところを指すというのが正解なのに、馬の鞍のことを呼ぶんだと珍回答する僕でもディープインパクトという競走馬が「どうやら凄いらしい」というのは、ニュースとかを見ていると分かる。

その馬の引退レースが昨日行われた。

僕の周りにいる何人かのギャンブラーは「弾丸のように走り抜く馬をはじめて見たし、これからそのような馬を見られるだろうかと聞かれたら<分からない>としか答えられない」と言ったし、レース3日前のテレビ放送では「いつからここに並んでいるかですかって?えっと2週間前からですかね」と、<この人たち仕事なにしているの?>と番組を見ていた全員が心配したり疑問に思うような連中が映しだされていた。

とにかくその筋の人にしてみれば、<2週間並ぶ>ことを屁とすら思わない入れ込みっぷりが、ディープインパクトに備わっているらしい。

まさに馬冥利に尽きるとはこのことである。

僕自身、パチンコはもとより麻雀も競馬もオートレースにも縁がなく、日ごろから「ギャンブルといえば、人生こそがギャンブルなのだ」と公言しているので、競馬レースとやらを腰をすえてじっくり観たことがないんだけど、今回ばかりは全国的なディープインパクトフィーバーにやられたのか、あるいは単なる野次馬根性ってやつだろうか、12月24日クリスマスイブの日曜日、生中継で引退レースを見てみた。

12万人の観衆が埋め尽くす中山競馬場に颯爽と現われるディープインパクトと武騎手。

観客のほとんどがこのコンビを目当てに訪れているのだから、当然、入場と同時に一斉に歓声が沸く。ほぼ全員が片手に馬券(新聞?)を握り締めていて、それが紙ふぶきのように見える。

レースの昂奮を敏感に察知しすぎたのだろうか、なんとかという馬が鼻息荒く手がつけられない状態になってしまった。レース前の慌しさと殺気が伝わってくる印象的な場面である。

そしてゲートがオープン。

ぱからぱからと走るディープインパクトは、レース前半では特徴というものが伝わらなかった。素人な僕からすれば、少々期待はずれな場面で、他の馬と混ざって走る姿は「負けちゃうのかな」と不安に思ったところでもあった。

しかし、そこからの残り600メートルという瞬間。

一気に弾丸のように濃い茶色の肉体的な一頭が完全に抜きん出てきた。

ディープインパクトだった。

あっという間に後方の馬を引き離し、飛ぶように堂々たる一着でゴールインした。

アナウンサーは昂奮冷め止まらぬ言葉で絶叫している。嬌声やら声にならない12万の声が空高く、こだました。

「ディープゥゥ、ありがとぉぉ!!」

多くの人がそう叫んだ。

僕は、この馬が引退しちゃうのは、もしかしたら時期尚早なのではないかなと思った。

無論、種馬としての価値を護るためには有終の美を飾るのはひとつの大きな付加価値なことだ。

しかし、僕がこの時思ったのは、ディープインパクトという馬が走る姿は<美しすぎた>ということだった。

唯一無比に颯爽と走る姿を今後は見られないというのが残念に思えたのだ。

煌く茶色のたてがみを振りかざし、他を寄せつけない最強の競走馬は僕らを虜にする。

ディープインパクトは<美の領域>に属していた。傑出した才能は常に我々を惹きつけて止まない。そして我々は、<美の領域>を喪失することに対して、絶えず試練を与えられる。

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投稿者 ko : 2006年12月25日 19:19 | トラックバック(0)
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