持つ部分のプラスチックをペリペリめくるとガムになっている斬新的なアイスを齧って、ゼウスとかサタンとか天使のシールの収集に明け暮れていた昭和キッズな僕らのヒーローは、野球選手でもなくロックスターでもなくゲームの上手な名人だった。
一世を風靡したゲーマー達は時代の寵児となり日本中からの注目を浴びた。いまでは到底信じられないけれども、名人ブームはさらに拍車がかかり、ゲーム名人対決が映画化され名人同士がひたすらゲームを闘いあう映画が上映された特殊な時代である。
そう、高橋名人は指を痙攣させると一秒間に16連射ができるという必殺技をひっさげて僕らを虜にした。スターソルジャーという連射を必要とするゲームを難なくクリアする姿にチビッコ達は痺れまくった。
そしてそのスターソルジャーはキャラバンと呼ばれるゲーム大会の種目になった。ハドソンというゲームメーカーが企画して大々的に<コロコロ>という漫画雑誌で最新情報が発表された全国大会である。全国のキャラバン会場ではチビッコ達の熾烈な争いが繰り広げられた。勝ち残った子供が全国大会に進むのだ。高橋名人がキャラバンに登場するというのも大きな目玉イベントである。
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渋谷区表参道に聳え立つ岡本太郎の巨大モニュメントが目印の<こどもの森>で開催されたキャラバンに僕は同級生と参加したことがある。スターソルジャー大会であっさり敗退した僕らだったけれど、最後のメインイベント<高橋名人と遊ぶタイム>があったので、胸の鼓動は高まりっぱなしだった。ワクワクしてテカテカしていたのだ。
「さーて、高橋名人と遊ぶ時間だよー」
座布団の山田君より2オクターブぐらい高い声が会場に響くや否や、飴玉に群がる蟻ん子のように名人に飛びつくガキンチョ。いま思えば仕事とはいえ、なかなかハードである。
訳もわからず「ウンコー」と叫ぶ奴がいたり、他の子供に蹴飛ばされて泣きだす子供が出てきたり。まさにカオス状態だ。僕らも指をくわえてみている間抜けじゃないので負けじと周りのガキンチョをどんどん押しのけて高橋名人にチェックメイトした。
名人の右腕に触るだけでご加護があると信じているのだ。
だから触れた時点で満足のはずだった。でもなんか一言発したいというのが当時からの男の野望。
「ウンコー」に対して「チンコー」はあまりにも芸がなさすぎるので一言こう叫んでみた。
「俺の友達126連射できるよー」
まるでウソである。そんな奴いるわけがない。なんでそんな事を言ったのかもよく分からない。居たとしたらソイツこそ腕にバネを忍び込ませているに違いないのだ。
しかしそれを耳にした高橋名人、子供の純真な野望にこそ真正面からぶつかってくれたのか、それとも俺を越える奴は何人たりとも許さねぇというベジータな精神なのか、「うおぉぉ」と雄たけびを上げたと思いきや、僕を軽々と持ち上げるとフゴーッと会場のはじまで飛ばした。
さすがにビビってチビりそうになった。安く見積もっても5メートルぐらい飛んでただろう。友達はゲラゲラ笑っていたので僕も笑っていたけど、正直おっかなかった。
しかし子供というのはアホというかネジが一本少ないというか僕が飛ばされたのをきっかけに他の子供達も「僕も僕もー」とおねだりして次々と吹っ飛ばされはじめた。フゴー、フゴー。
「高橋名人って、100万パワーあるかもしんないね」
キン肉マンが3度の飯より大好きな友人のその言葉に僕はただ頷くばかりだった。
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とにかく当時は連射が出来るというのが算数ができるというのより圧倒的に魅力を放っていたのだ。
ハイパーオリンピックが出始めた頃から鉄定規を机に固定してビヨンビヨンさせて揺れを連射に活用する技が開発されたとはいえ、何といっても一番カッコよかったは、ピアノ打ち(人差し指と中指をピアノを叩くように連打する手法)やこすり打ち(人差し指・中指・薬指の爪を滑らして連射する手法)でもなく、親指と中指の先をくっつけて真ん中に人差し指を添えて連射する痙攣打ち手法だった。
この連射スタイルがピカイチだった。
何連射できたか?というのは常々自己申告で誰も正確に計測できなかったけれど、そんなご時世ということもありハドソンが連射だけを計測するシューティングウォッチを販売したのだ。自分が何連射できるのか?ついにそれが計れるようになったのである。
当時クラスメイトの数名はこれを持っていたけれど、僕はファミコンと同じぐらいに流行していたエアーガンにお小遣いとお年玉をすべてつぎ込んでしまったので、買えなかった。
ものすごく欲しかったので残念でいたしかたない。いまでもふとした瞬間に心惜しい気持ちにすらなる。
そして時折ウォッチングするヤフオクで売られているボッタクリ価格の<シュウォッチ>を横目に日々を過ごしていたら、なんとこれがハドソンから1万個限定で復刻販売したのである。
買わずにはいられない。代引き手数料送料が無料で1600円。
9月に配送ということで今年は連射の熱い夏こそ迎えられないが、それはしょうがない。
秋が移ろう物悲しい季節にスターバックスでホットカプチーノなんぞを飲みながら、気色悪い顔して連射しまくってOLに奇異の目で見られてやろうと思う。