台風が過ぎ去った後は低気圧がホニャララして高気圧がウニャララして快晴になり、それを「台風一過」などと言ったりする。
この「台風一過」を「台風一家」だと思っちゃいましたみたいな鶴光ライクなAMラジオジョークを僕は心が極端に狭いのでまったく解さないのだが、そういう勘違いというのは案外あったりする。
酔っ払う以外の手段で酒場で恥ずかしい思いをするのは、こういった類の勘違いだ。ウンチクの勘違いだとか、そういうのである。
*
*
ジャズのレコードが真空管アンプで流れる地元のバーで、あんずの種の天神様を使ったリキュール、すなわちアマレットをオレンジジュースとソーダで割った<ボッチボール>というお酒を初めて呑んで、一気に虜になった。最初の一杯をいつもこのお酒に決めて、週に3日程通っていたわけだが、ある晩、何がというわけではないけれど、強烈な違和感があった。バットと間違えて大根を握ってバッターボックスに立ったような気分だった。そしてその違和感は、とある友人の言葉で氷解した。
「そのお酒さ、ドッチボールじゃなくて、ボッチボールって言うんだよ」と。
世界の中心でおもらししそうな一言だった。
*
*
タイにあるホワヒンというビーチは、15年ほど前までは僕のタイの友人が完全に仕切っていたエリアで、そこで遊ぶ限りは僕らは何でもOKだった。
いつものように売春婦やゲイやオカマやマフィアなんかがごちゃまぜになってドンチャン騒ぎしている夜、いつもはシーバスリーガルを使って何でもかんでも割っていたんだけど、その日はI.W.ハーパーだった。
ご存知、ケンタッキーで生まれたバーボンだ。
タイに来る前からその存在を知っていたとはいえ、そもそも酒を嗜む時期じゃなかったので、お酒の種類や由来に興味も薄かった。酔っ払ってふとラベルを見たら僕が知っているハーパーとは違うじゃないか。
「あれ、これって、I Love You ハーパーって言うんじゃないの?」
聞いた自分が間違っていた。爆笑の渦がとぐろを巻いて、オカマちゃん達に「なんとかかんとかカーーーップ」とクネクネ触られた。きっとタイ語で「どんだけー」って言っていたに違いない。そして在タイ中のあだ名は、たったこの一言で決まってしまった。
*
*
まあ、そんな話。
呑んで~呑んで~呑まれて~呑んで~、と。それでは今宵も何処かの酒場で。