僕が毎週DJしている友人が経営しているお店は、平日週末にこだわることなく、きっと土地柄だろう、外国人のお客さんがわりと目立つ。5人ぐらいのグループで来客されることもあれば一人でカウンターで飲むお客さんもいらっしゃる。
なんとなく「もしかしたら今夜は外国人が多いかもしれないな」なんて思っていると、ビバリーヒルズ高校白書から飛び出したようなグループが実際にテーブルを取り囲んだりしているから不思議である。
週一のお手伝いでも、継続して現場を見渡していると、その仕事ならではの<勘>みたいなものが培われるらしい。
*
*
先週末。
その晩の一番最初に扉を開けたお客さんは外国人だった。大体が22時以降に外国人のお客さんが増える傾向にあるので、一組目が外国人というこのパターンは珍しい。しかも一人である。
アメリカ人のレナード君。横須賀の基地に2週間だけ滞在し、また本国に戻るというタイトなスケジュールながらも、きっちりと週末は表参道や六本木を攻めまくる青年だ。
一組目という余裕から、レナード君に普段はどんな音楽を好むのかとか訊ねてみた。
通常、DJするときは手持ちにない曲やジャンルをリクエストされても失望させてしまうことになるだろうから、できるだけリクエストは避けているのだけれど、まあいいかと思い、聞いてみたのだ。リクエスト云々以前の技術的な問題を山ほど抱えているというのに、安請け合いをしてしまう性分は直さなくてはいけないのかもしれない。
「HIPHOP・・・」
返ってきた答えは一番厳しく苦手なものだった。手持ちがまるでないのだ。最も縁遠いジャンルである。Kanye Westのアルバムをかろうじて一枚持っているだけで、あとはせいぜい何かのサントラに収録されているトラックがあるぐらいだ。ずばり「尺が足りねー」である(腕もねーでもある)。
かろうじておいてある棚のどこかに埋もれているエミネムを探すためには、バベルの塔の如く聳え立つベタ置きのCDタワーを崩さなくてはならないわけだから、気が遠くなる作業になるのは明らかである。
もちろん暗い店内の上にエミネムのアルバムがどんなジャケットだったかすらも憶えていない不甲斐ないDJが探索の旅に出られるわけがない。
エミネムは諦めようと肩を落とした瞬間、ちょっとしたことがよぎった。以前にHIPHOPを流さなくちゃいけない夜がもしかしたら訪れるかもしれないと危惧して、渋谷の宇田川交番裏手にある日本一下品そうなHIPHOPの店で買っておいた編集盤のアルバムをストックしていたのだ。
この2枚で何とか凌いだ。レナード君もそれなりにご機嫌である。
シアトルからやってきたと言うので、野球の話とスターバックスの話とニルヴァーナの話題で盛り上がり、<Smells Like Teen Spirit>のHigh/Lowを切って(店で使用している自前の機材にこの機能があるので、一度使ってみたかったのだ)、「Hello,hello,hello,how low?」のボーカル部分だけをHIPHOPに被せたら、手を叩いてゲラゲラ笑っていた。
そして30分も経つと、レナード君と入れ替わるように、僕の友達が遊びに来てくれた。
*
*
さて、アメリカ人は諸外国の非英語圏の人と話すときは努めて分かり易く話そうとする傾向が見受けられる。それに比べて英国人は酷い。決して速度を変えることなく平然と話そうとする。もちろん個人差あってのエピソードだ。でも僕の粗末な経験に照らし合わせてみても、この類の話というのは、結構思いあたる。
この夜のレナード君もそうであった。日本人に聞き取りやすい速度とセンテンスで会話をするのだ。コミュニケーションをとりやすい。
英語学習においては、<習うより慣れろ>という言葉を頻繁に耳にする。語学は生活ツールであるというのが僕自身の思想なので、この信条は大いに頷ける。
学習したい言語と日々接するのが、学習への近道だ。
悲しくも、近頃、映画を鑑賞していてもスルーして見ていたはずの字幕で立ち止まってしまう場面が出てきた。
こういう時に活躍するのは速聴学習で、付録のCDをMp3ウォークマンにぶち込んで通勤中にリスニングすると効果が増大する。
英字新聞から拾い出した例文はいささか時代を感じざるを得ないけれど、言葉は不変である。
青い表紙のCore編は初級者にやや敷居が高い。やもすれば途中で投げ出しかねない。でもジっと堪えて目を見開き耳を開放すると、良質の英語学習が得られる。
最初は辛いが、初心者用の緑色の表紙よりもこちらから始めたほうがいい。
僕はひさびさに再開しようと考えている。