フォネティックコードというものがある。戦場で必要な重要な文字や数字を、決して間違えないように無線を通じて伝達する目的で開発されたものだ。アルファベットの頭文字が先頭になる言葉を丸ごと発して、アルファベット自体を伝達する方法だ。
例えば、BとDとPとTは混合しやすいし、間違えたら致命的である。そこで、AlfaのA、BravoのBなどと表現し、相手に伝えるのである。
以前、フォネティックコードさながら相手に重要な文字情報を伝えるという職に従事していて、関西方面の相手に対して「えー、そうですね、東京のTですよ」と<T>を表現し偉い目にあった。
「東京のT?何がやねん。Tって言ったらタイガースのTやがな」と。
じつに関西というところは不思議で、アンチ東京に抜かりがない土地である。
余談だが大学でこんな授業を習い感心した記憶がある。ある商品の物流量を調べると、関西だけが出荷数に伸び悩みがあるのだという。担当者一同、どうにもこうにも頭を捻ってもパンツを脱いでも、皆目見当付かない。関西以南は他都道府県と同様の売り上げが計上されるというのにだから困ったものである。
とにかく、関西エリアだけが売れない。謎だ。そこで、ある担当者が商品の味や宣伝方法ではなく、その商品のパッケージに着目した。
そしてある発見をした。「江戸☆らさき」と表示されているのを。
つまり江戸という単語一つで関西の売り上げが落ちたらしい。
そんな土地柄なので、<東京のT>なんてのは、火に油を注ぐかのように、彼らのアンチ魂を奮い起こしてしまうのだ。そんな傾向に気づいた自分は何度となく意図的に<東京のT>と数多くの見知らぬ関西人に伝え、そしてその後に延々と叱られた。
しかし、怒りが沸騰している彼らではあるが、同時にユーモアの精神を決して忘れることがないようで、「あ、すみませんでした。えっとそうですね、田淵のTですね」と続けると、「わっはっは、お兄ちゃん、さすがやなぁ。そうやねん田淵のTやねん」と褒めてくれる。
なんともはや。