昨日、ひさしぶりの友人から電話があった。
「なぜか週末になると、眉毛のところにあるホクロが痒くなるんだ」
数年も音沙汰がなかったというのに、開口一番の台詞がこれである。
僕はお風呂に入ろうとしてパンツを脱いで素っ裸で部屋を駆け回っているところだった。家の外ではできない行動を心置きなく堂々と実行できるというのは素晴らしいものなのである。
彼は続けた。
「しかもホクロが痒くなる週末に限って、酒にひどく酔うんだよ」
かなり深刻であるらしく、トーンがますます落ちていった。仕方なく、僕は部屋を駆け回るのをやめ、彼の相談に乗ることにした。
「なんだか分かんないけど、痒いんだろ?だったら掻けばいいじゃないか」
これ以上にない正論である。たぶん大学病院の医者だってまずはそう言うだろう。
「あ、なるほど。ホクロが痒いんですね。あー、そうですか。それでは、そのホクロを掻きましょうね」と。
しかし、どうやら僕は間違った答えをしてしまったようだ。なぜなら彼が突然と怒ったからである。予想していない反応だったので驚いた。
「ホクロン、怒るなよ」必死になってその言葉を抑えた。
「お、お前、バカ言ってんなよ。ホクロ掻くなんてそんなこと出来るわけねえじゃんか。ホクロっつうのはな、掻くとヤバイんだよ。ホクロっつうのはな、スイッチなんだよ。分かるか」
分かるわけがない。そこでようやく僕は、彼が以前に小人に襲われるから助けてくださいと警察に相談して、結局、長いこと警察のお世話になっていたのを思い出した。
そんな過去も抱えているのだから、あえてブッダのような声で彼に救いの手を差し伸べた。
「そっかー。そうだよね。スイッチは押しちゃまずいよね。やばかったよ。オレも押しそうになったことあるもん。掻いちゃマズイよね。どうしよう・・。そうだ、ホクロが痒いんだよね、だったらアレじゃん。タイガーバーム。ばっちりでしょ。痒みといったらタイガーバームしかないって」
地獄の淵で蜘蛛が垂らした糸を見つけた男なら、きっとこういう声を出すんだろうなっていう声で、彼が受話器の向こうで叫んだ。
「マ、マジありがとう!超助かったよ。さすがだよ。持つべきものはやっぱ友達だよな。ちょっと待っててよ。いまタイガーバーム持ってくるからさ」
いつになったらお風呂に入れるのだろう。30歳過ぎたのに部屋で全裸なのである。
どうにかしないといけない。
「い、いや、いいよ。礼には及ばないって。友達だもん、当然さ。つかさ、近々呑みでもしよ・・」
届かなかった。その代わりに電話の向こうでガサガサと音がして、あったーと聞こえた。
息を弾ませて彼が言った。
「見つけた見つけたよ。タイガーバームが薬箱にあったもん。ちょっと待っててね。いまヌリヌリするからさ」
「あ、う、うん」
そう答えるしかない。
電話の向こうでタイガーバームの蓋を開けるパカっていう音がした。
さあタイガーバームを塗るんだぜと彼が意気込んでいる姿を思った。
「さあーて、いよいよ塗るぜー。よーし」
なぜか実況中継である。
スリスリ。
「あ、ちょ、チョー痛てぇ。目が、目が開けられないー」
彼が相談してきたホクロは、目のそばにあるというのを忘れてた。
「痛いってー。スイッチがぁー」
プツッ。ツーツーツー。
電話が切れた。
ごめん、ホクロン。そう呟いてようやくお風呂に入った。
ァ '`,、'`,、'`,、'`,、(´▽`) '`,、'`,、'`,、'`,、'`,、
ホクロン面白すぎる!!その後どうなったんだろうねー?
ヤバイよね。彼のあだ名はホクロンに決定したよ!