2008年01月23日

無尽講

山梨県甲府盆地のやや身延に近いエリアに足を運ぶと、桃園があり葡萄畑があり、東日本屈指の果樹県なのだなぁと改めて感心するのと同時に、ラーメン屋やスナックや中華料理屋、焼肉屋などお店の規模・形態にこだわりなく看板に「無尽 承ります」と書かれているのを見つけることとなる。

都心部の人には馴染みのないこの無尽というのは、ほうとうや馬刺しと同じ郷土料理の一種というのではなく、古くから存在している民間金融システムのことを指している。特定地域以外では見かけないけれども歴史を紐解くと、すでに鎌倉時代には成立していて、いまも沖縄と山梨に現存している。頼母子講(たのもしこう)と呼ばれたりする。

運用面の側面としては、金融商品を発行するのではなく、閉じられた会員による運用となるので、土着の結びつきが強い。

土地ごとに区切られている<組>、学校などの所属、職業の多岐にわたり個人もしくは法人単位で<無尽>に所属し(一人一無尽とは限らない)、定期的に一律の金品を無尽に払い込む。

無尽は払い込まれた金品の総額もしくは一定額を引き出し、特定期日を設けて、くじ引きや入札形式で当選者や落札者に与える(とあるけれど、ほとんどが順番形式になっていて談合的な要素がある)。あるいは実際に金品を無尽自体で運用し、生じた利息を無尽に所属している者に対して給付する。

また特定日の給付に限らず、相互扶助という様相もあり、所属者への無担保による融資なども行われる。

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隣接した都道府県であるのに、東京ではまったく知られていないシステムである。先日、僕自身、たまたま無尽にスポット参戦する機会をいただいたので、同席したけれども、かなり独特のコミュニティで、職業的ギルドとはまた違った、かなりディープな世界だった。

現在催されている無尽は、上述した特徴はなく、無尽の所属者同士で積立をして、その積立額を活用して宴会をしたりしているらしい。ただ入札やくじ引きの面影は残っていて、必ずビンゴとか催し物が盛り込まれるようである。

だから土地柄、山梨は宴会の機会が圧倒的に多い。どんな店でも「無尽 承ります」と明記しているのが頷ける。

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無尽は、情報交換や親交を深めるきっかけとなるのと同時に、徹底的に閉じられたコミュニティを形成することになるので、談合の可能性を秘めてしまったり既得権益を手放さない原因となる側面もあり、他者を排除する社会構成になりがちである。

また政治家は票数確保のために多数の無尽に所属することから、金権政治だと揶揄されることがある。

なお、会社組織で無尽業を行う場合には「無尽業法」で制定されている。実際には、この無尽講が発展して、相互銀行となり、普通銀行化して、第2地銀となった。

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経済的効用が期待できる一方、徹底的な縁故共同体の成り立ちを助長しすぎるきらいがあるけれども、東京では面影がなくなったこのシステムを、時代に迎合した「ネオ無尽」として蘇らせるアイデアは悪くない気がする。

気心の知れた仲間同士内の運用であれば、容易であるし、旅行や宴会やイベント企画と多面的に活用でき、無尽が何かの触媒になりえるだろう。

ところで、山梨在住の県民の多くは、某消費者金融のサービス「むじん君」を見たとき、「無尽君」を思い浮かべたのが多数であったとか。

第2地銀に限らず、消費者金融には無尽から発展したものもある。

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投稿者 ko : 2008年01月23日 19:19 | トラックバック(0)
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