2010年03月07日

本の虫と予約する居酒屋

寝ても覚めても手当たり次第に本を読み漁っている者を、洋の東西を問わずして本の虫「book worm」と呼んだりする。

本の虫になったきっかけは、人それぞれにそれぞれの理由があり、きっと何がしらの1冊がその道へと導いたのだろうと思うと、その人のそれはどんな1冊だったのかと想像するだけでも愉しい。

僕が本の虫となったのは、小学校3年生の夏休みで、実は僕は夏休み直前に交通事故で入院をして、丸々2ヶ月を病棟のベッドで過ごしたのだ。昭和50年代とはいえ、当時にもポータルTVはあって、叔父が所有していたので、持ってきてくれたが、そんなにテレビっ子ではなかったものだから観る回数は少なく、お見舞いで戴いた本を繰り返し繰り返し読んでいた。思えばそれが僕が歩んだ本の道への記念すべき第一歩だった。

そんな読書の歴史の中で、1冊を選ぶとしたらという質問は拷問に近いので、仮に質問を変えるとして、旅先に必ず持っていく本は?ということであれば、僕は開高健の「地球はグラスのふちを回る」を挙げる。昭和56年のエッセイだけれども、いま読んでも文章は色あせず瑞々しく、時間を忘れて没頭できる。

旅好き釣り好きなど多趣味で知られる開高健は、同時にグルメとしても有名であった。彼のグルメエッセイに「ラーメンワンタンシューマイヤーイ」というのがあって、美味しいシュウマイ屋を紹介したいけれど、それがなかなか難しいというのをこんな風に表現している。「・・・このような場所にそれを書くと、たちまち客が殺到してたちまち味が落ちてしまうにちがいないから、とくに割愛することにした。恋と同じだ。御自分で見つけて下さい。」と。実に上手い表現である。

いまからこの記事に載せる店もそんなお店のひとつだ。恋と同じである。

少なくとも土曜日は予約しないと席に着くことが出来ないこの店は、5年ほど前から月に一度の割合で通う都内某所にある店で、知り合いに紹介されたのが最初だった。

のちに旅チャンネル「全国居酒屋紀行」などの番組でも有名な太田和彦氏も大絶賛をしていたのを知って、太田氏の鋭い味覚と居酒屋への情熱にただただ深く頷くばかりであった。

こじんまりとした店内は10組も入れば満員御礼になって、お品書きにはメニューはあるけれど、そこに値段は書いていない。一見のお客さんだったらピリリと背筋が伸びる瞬間だろう。

暖簾をくぐると毎度「○○君(僕の名前)、いらっしゃい。よく来たね」と温かく迎えてくれる。心がほぐれる瞬間だ。

上質な炭火が入り口で炊かれて、そこで新鮮な魚を焼き上げる。店内にはレトロな歌謡曲。全ての料理が丁寧で、その味といったら頬っぺたが落ちるほどである。

ここではビールと片仮名にするより麦酒と表現したほうが合うのである。一杯目は麦酒、すっと瓶が出てくるので、渇いた喉を潤す。そして、まず註文するのは煮物と刺身である。

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優しい味の煮物。

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そして、中トロをどのタイミングで食べようかしらと悩ましい刺身。

優しい味付けの煮物を、とみさんが長箸で綺麗に盛る。そして、新鮮な刺身。そう、ここは何でも絶品なんだけれども、魚の旨さといったら、それはもう都内屈指なのである。

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こちらはほっけ。焼き担当のYさんが註文が入り次第、炭火で焼く。その手つきは熟練工だけが持つ繊細で正確な、職人の技である。ほっけ若しくは銀鱈をまずは頼みたい。肉厚でジューシーで、何よりも新鮮で香ばしい。魚を焼くには、なんと言っても炭火が一番である。もうもうと上昇する煙を嗅ぐと、日本人に生まれてよかったなって、思う。

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そして酒肴の品々。

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最後はいつも丼で締める。

幾つかあるうちの、まぐろの漬け丼かいくら丼が、いつもの締めだ。プリプリのいくらが熱々の御飯にたっぷりと乗っていて、海苔が散らしてある。一口食べるたびに愛おしさがこみ上げてくるのである。そしてほうじ茶で一息つける。

どのお店でも撮れる場合には可能な限りに写真に収める僕でも、このお店の場合、つい忘れちゃうことが多い。酒に心地よく酔っているのもあるし、美味しくて気がついたら食べ終わってたなんてのも。

ここの定番でいったら、塩辛がそうだね。気がついたら食べ終わっている。日本酒の熱燗に合うのですよ、これがまた。

なので、ここには挙げていない、季節の名品なんかもある。秋のほんの僅かな期間にお品書きに登場する「揚げ銀杏」は、秀逸で日本酒にピッタリなのである。魚も秋の秋刀魚は、もう格別。ここの銀杏と秋刀魚に想いを馳せると、嗚呼、秋が待ち遠しい。

まだ行かれたことのない御友人の皆様、僕はいつでも皆様のオファーがあり次第、予約しますので、iPhoneまで連絡ください。日本酒やお湯割り、麦酒も呑みつつ、たらふくに食べて、一人3千円程度。いいのかな?なんて思っちゃう値段である。

そして会計時にとみさんが「○○君(僕の名前)、また来てね。いつもありがとね」と。

こちらこそ愉しい時間をいつもありがとう。

3月の日曜日に降る長雨に、そんなことを想いつつ。

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投稿者 ko : 2010年03月07日 17:17 | トラックバック(0)
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