2004年11月19日

水木しげる

小学5年か6年の時に漫画家の水木しげるの家に電話を掛けたことがある。
もちろんいたすら電話ではない。かといって遠い親戚を辿っていくと水木家にあたるわけでもない。

20年前の当時、藤子不二雄ランドと称して毎週セル画付きで藤子漫画が復刻したり、
発売されていて、僕は今は亡き幼なじみとそのシリーズを貪るように夢中になって耽読していた。

シリーズのひとつに著者の半自伝的な漫画があり、凄く大好きなシリーズだった。

題名もそのまんまで「まんが道」。

ことさら説明するまでもないけれど、藤子不二雄は[藤子F不二雄]と[藤子A不二雄]の二人組のコンビから成り立っている漫画家である。
記憶の倉庫から情報を引き出すと、たしか僕が小学生低学年まではペンネームは〝藤子不二雄〟オンリーだった。
いつのころからか『ドラえもん』の巻末にある著者紹介で、FとAがそれぞれとして紹介されるようになり、見て、ビックリしたものだ。一人だと信じていた人が実は二人だなんて。
同時にこんなにしてわざわざ二人の名前を別に記載するにはなんか理由があるのかなと小学生ながらに心配になった。

さて、その二人が登場するこの「まんが道」、主人公は才野茂(F)と満賀道雄(A)といういささかベタな名前で、内容も自伝的であるぐらいだから、彼らの対面シーンに始まり、葛藤、そして手塚治虫との出会い、名アパートのトキワ荘で仲間達と過ごす共同生活と徐々に一人前の漫画家として成長する姿が描かれている。

ところでトキワ荘のひとコマに登場する〝キャベツの味噌汁〟は、盆ダンス管理人ことTK野氏も幼少時代に憧れたという、グルメ漫画美味しんぼを越える漫画界最強の仕上がりになっているので食いしん坊は絶対読むべし。

で、『まんが道』の少年編では、いずれは大漫画家に成長するこの二人が初めて作品を書き、それをキリや画用紙を使って製本して、近所の同世代の子供たちに見せて大絶賛を浴びるシーンというのがある。
そのシーンで僕らは大いに影響を受けた。自分達のデッサン力なぞまったく度外視して、俺らはもう漫画家になるしかないなと西日の射す放課後、訳もなく決意とかしたりした。

当時から、何をするにもまずはカタチから入るというのが我が信条というか先走りであって、この時も例外なくマンガに出てくる道具を片っ端から揃えていった。

今でも何を買ったか覚えている。ケント紙、丸ペン、Gペン、ペン先、インク、スクリーンシート、肝油ドロップ...etc。最後の肝油ドロップは画材と関係ないんだけど、本編では重要な役割があるので購入した。
あとプラスチックの定規は家にあるのを拝借し、作中に書いてある通りに裏側に一円を貼り付けて準備した。なぜ1円を貼るかというと、一円硬貨の分だけケント紙と定規の間に隙間が出来て、インクがこぼれないようになるからだ。ペン先は使いやすいように後ろの部分を削った。

それだけのアイテム群を丸々準備したところで漫画を読むのは好きでも別に絵を描くのは好きじゃないし、道具を揃えると、あり大抵は満足しちゃう性格なので途端に暗礁に乗り上げた。毎度のことである。それにノウハウや絵の組み立て方がさっぱりなのである。

じゃあっていうことで今度準備したのは小学館から出ている「マンガの書き方入門」とかいうタイトルのハウツー本。
小学生向けの本から学ぼうとしたわけだ。

今考えると意味が全く分からないんだけど、この本の巻末には有名な漫画家のプロダクションの住所・電話番号がバッチリと記載されていた。

これを見て僕らはすぐに閃き、うん何かに使える!と、みるみるうちに素晴らしいアイデアが湧いてきた・・・というかは、きっとこれは〝君らから漫画家に電話してみろ〟という小学館からのメッセージだよと、まるでハタ迷惑な思考を導き出してしまい、しかも片っ端から知っている漫画家の住所を104で検索した。

これくらいになると漫画の書き方を教えてくれるかもしれないという高尚な相談ではなく、
サイン貰えるかなとか、もしかしたら生原稿貰えちゃうかもねという私利私欲に傾きかけていた。

もちろん言うまでもなく104で調べ上げたところで実際にそこに漫画家本人がいるわけでもないし、ガキンチョが掛けてきたところで取り持ってくれるわけがない。けど僕らはまだそんな事情は知らなかったので家の電話から調べた番号をダイヤルした。

「もしもし、手塚先生はいますか・・・?」
「もしもし赤塚先生に用があるんですけど・・・。」
「ここにはいないんですよ」出た人はみんな優しく言ってくれた。
でも漫画家本人とお話できないのでつまるところ収穫ゼロだった。

電話するのも飽きちゃってしばらくコードを弄くりぶらぶら遊んでいる僕に反して友人はまだその住所録を真剣に検証していた。
「おい、ちょっとこれを見てみろよ」
「えっ?」
僕は口をだらしなく開けてそっちを見た。
友人がまさに血相を変えて本を押し付ける。

「おっおぉ~」
なんだか近所のサカリのついた猫のように声ともならない音を思わずだしてしまった。
そして目を疑った。

水木しげる 東京都×××××・・・
こ、これは、どう見ても普通の住所だ。

いいぞ、いいぞ。ついに金脈あてちゃったかな。僕らはにやにやしながら104で調べ、すぐさま掛けた。
プルルル、プルルル。けっこう保留音が長い。あーあ。やっぱ出ないのかな。載っているわけがないよね、ホントの住所なんて。そんな諦めモードになろうとした瞬間。受話器をあげる音がした。
カチャリ。

「はい、もしもし水木ですけど」

やっ、やったー!出たぁ!!
でも女性の声だ。友人が唾を飲む。
「あっあの~。水木しげる先生をお願いしたいのですが・・・」
僕は間髪無しで言った。当たるも八卦当たらぬも八卦だ。

奥様らしき女性が続けて言う「はい、少々お待ちください」
耳を疑った。期待していたとはいえ実のところ想像していたシナリオとは違った返事がきたからだ。

え?いまお待ちくださいって言った?
僕らはガッツポーズをして、なぜか姿勢を正した。

「お電話変わりました、水木です」
ホンモノだ・・・。

「あ、も、もしもし。あの~、その~」
何をいえばいいのか頭が真っ白になった。
言葉が浮かんでこない。
しかも緊張のあまり突拍子もないことを言ってしまった。

ゲゲゲの鬼太郎、好きです!!」シーン。無反応。

ヤバイくらい辛い静寂のあと、先生は大きく笑った。
「ハッハッハー。ありがとうありがとう。お電話いただけるなんて。いやー、小学生のお子さんかな」
「は、はい、そうです」電話なのに僕は何故か耳まで真っ赤になった。

「先生は嬉しいよ。わざわざ掛けて貰えて。ほんと、ありがとう。でもね出版社とかお仕事の人からたくさん掛かってくるからあんまり長くお話とかできないんだ。ごめんね。今度ボンボンで鬼太郎が掲載されるから読んでくれるかな」

「はっはい!!」
力いっぱい答えた。
「ハハハ。ありがとう元気がいっぱいだ」
「それじゃあね」

電話は切れた。今まで味わったことのないヘトヘト感がそこにあった。でもすごく満足した。僕はいま、水木しげるとお話をしたんだ。

そして友人と誓った。よし、ボンボン買って鬼太郎読むぞと。

そういうわけで、僕は小学5年か6年の時に漫画家の水木しげるの家に電話を掛けたことがある。
まだ昭和と呼ばれる時代の頃のお話だ。

いまでも僕はゲゲゲの鬼太郎が大好きだ。


「大(oh!) 水木しげる」展
期間:平成16年11月6日(土)~平成17年1月10日(月・祝)
会場:江戸東京博物館 1階 企画展示室
開館時間: 9時30分~17時30分(木曜・金曜は20時まで)
※入館は閉館の30分前まで

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投稿者 ko : 2004年11月19日 11:52
コメント

水木しげるもしくは藤子不二雄A氏の住所および電話番号分かりましたらお教えください。
お願いいたします。

Posted by: 毛利恵 at 2010年04月10日 19:30
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